カテゴリ:化学( 3 )

ざっくばらんに家庭の薬学

タイトルの通りにざっくりざっくり薬学の話をしてばらばらにしてみようという記事でーす!(注:「ざっくばらん」とは正確にはそういう意味ではないと思います)
現在の薬学の抱えていると思われる問題に関してとても大まかに話をしてみようというのが今回の主旨で、実際の現場ではもっと複雑であるということは最初に断わっておきます。個々の化学物質で問題となるのはやはり違いますからね。


そもそも「内科治療」と呼べるものは古くから様々な文化圏で成立していたものです。簡単に想像してみるといいと思いますが、食事も外部から何かしらのものを体内に摂り込む行為であって、それによって体調が良くなるという経験は昔の人もしていただろうと思われます。ただこれがいつ「治療」として意識して利用されるようになったかについては明確な証拠が見つかっていないようですが。(なお人間以外の動物でも普段は口にしないものを食べることで体内の調子を整えることがわかっています。身近なものでは猫草とか。ただしこれは本能的な行動であって、人間の治療のように意識しているものではないと考えられます)
ともかく上記のように何らかの物質を体内に取り込むことで病気や怪我を治癒させようという行為は古くからありましたし、ある程度文明の発展した地域では自然なものだったと言えます。
こうした流れが本格的なものになるのは錬金術の登場によってです。

錬金術は必ずしも不老長寿のみを目的としたものではなくむしろ宇宙の探求などに連なっていたものでしたが、自然と人体は密接な関係を持っていると考えられていたので医療にも応用されたというものです(おおまかな話は錬金術全般の基礎知識 を以前書いているのでそちらをどうぞ)。
錬金術はギリシャ、アラビア圏、中国、中世ヨーロッパで個別の発展を遂げますが、現在の日本などで主流となっている西洋医学に繋がるものはパラケルススの登場によって成立してきた医化学派の研究です。パラケルススは塩・硫黄・水銀が三大元素であるとしたのですが、この中でも塩(食塩NaClのことというよりは溶液から析出する塩(えん)のことだと考えてくれればよいと思います)の研究は酸による分解と気体発生に繋がっていき、後々化学全般の発展にも大きく寄与します。
塩に医化学派の研究者が注目したのはパラケルススの影響というのもあるでしょうが、温泉の医療効果を薬として実体のあるものにしようと考えたからというのもあるようです(なお西洋の「温泉」は製塩所で岩塩の採掘を行なっていた場所に湧き出てくる塩水をお湯に変えたものであることが多く、日本の火山性の温泉とは異なります)。最も有名で、長く売り続けられた薬はグラウバーの塩Na2SO4というもので、17世紀の化学者ヨハン・ルドルフ・グラウバーが温泉の成分分析から発見したもの。これの効能は何かというと――ただの下剤だったりします。単純に体内に吸収されにくいものだから体の外に出ていくというそれだけのことなのですが、ソーダNa2CO3製造法の一つであるルブラン法の主な収入は副産物であるこちらのグラウバーの塩だったということがわかっているくらいに売れたのです。ちなみにソーダは紙や繊維の漂白に使われる化学物質なので当時の産業にとても大きな需要のあったものですから、それより売り上げが大きかったというのは……よほど当時の西洋人は便秘に苦しんでいたんですねぇ(←ちなみに私はこれは半ば冗談で使っていますが、きちんと論文に書いてあったりするので侮れない)。なお余談ですがミネラルウォーターというのは飲泉がより大きな市場になったものです。グラウバーの塩などは現在は廃れましたが、こちらはまだ生き残っているわけですね。
さてはて、細かい話はこのくらいにして。注目されるのは西洋錬金術の流れから出てきた内科治療というのは「無機化合物を体内に取り込むこと」だったということです。これが変わってくるのは19世紀初頭になります。

大航海の幕開けによって多くの動植物が世界中から集められ、その中にあったものにキニーネという南米先住民の間で解熱剤に利用されていたものがありました。これは後にマラリアにも効果があることがわかり注目を浴びるようになります。なおここでは一般的に名前の通じている「キニーネ」を使っていますが、化学物質として単離されたのは19世紀に入ってからであり、実際に使っていたのはキナの皮であることには注意です。
キニーネを始めとする有機化合物を内科治療に利用し始めるのは18世紀半ばから19世紀初頭にかけてで、この頃に窒素を少量含む有機化合物であるアルカロイドに薬剤師らの注目が集まりました。アルカロイドは塩基性であり、動物や植物の体内では通常他の酸と結合して塩の状態で存在しています。なので体内に取り込むと反応しやすく、多様な生理的作用を引き起こすというわけです。キニーネの他にはモルヒネなどもアルカロイドの一種ですね。この有機化合物の薬剤への研究が盛んに進められ、次第に人工的に薬物合成が行なわれるようになって現在の薬学に至るという流れになります。医薬品のパッケージやCMで芳香族の構造式をよく見かけるのはこれが理由です。
ここで登場した有機化合物は先に挙げた無機化合物の薬剤と比べて体内に取り込まれやすく、また大きな作用を齎しやすいことに注目です。無機化合物は比較的構造が単純であり、生物の進化の過程で細胞が内部に取り込まれやすいものとそうでないものが明確に分けられています。大雑把に言えば細胞膜にあるチャネルで選択しやすい。一方で有機化合物、中でも人工的に合成されたものは細胞内で化学反応を起こしてしまいやすい、あるいは細胞内に取り込まれた際に選択的に排出する仕組みがほとんどないため蓄積がされやすいということになるのです。
薬学ではないのですが一例として。小学校の頃から何度も耳にしていると思いますが水俣病の原因は有機水銀です。『無機』の方の水銀ではないわけですね。ほとんどの生物は無機水銀Hgを選択的に排除する仕組みを有しています。例えば魚であればエラで水銀を濾し取っています。したがって高濃度でなければすぐに体内に取り込まれ蓄積されることはないのですが、有機水銀だと排出機能がないため体内に溜まり生物濃縮によってさらに高濃度になって人が口にする食材などになる、あるいは人間の方でも選択機能が働かないので胎盤を通過してしまって胎児に影響が出るなどの問題になりやすいということです。


まあこの単純な「無機」と「有機」の分け方には問題もあります。水俣病と並べられることの多い四日市ぜんそくは原因が亜硫酸ガスであって、無機ですし。この辺りは冒頭で述べた個々の事例で違うというところです。またこれは薬学の話でもないですね。印象に残りやすいかと考えて提示してみた例だと思っていただければ。
ともかく薬学とその産物を利用している医療では、昔に比べて大きな副作用を伴う治療を行なっているということになります。その分良い効果も得ているわけですが、ここは医療に関わる人たち(医師だけではない)のジレンマであり、課題と言えます。
これに関しては様々なアプローチがあると思われます。例えば心理療法との併用により薬への依存度を少なくするというものや、古来からある(ただし研究は科学的になっていますが)食事療法や生活習慣の改善に重点を置くなど。または西洋医学とは袂を分かった東洋医学の可能性(これはよく誤解されているのですが東洋医学を西洋科学のメスで調べようというのがあり、漢方のどの成分が役に立つかなんてことが本当の研究者の手ですらやられていますが、そもそも東洋医学は西洋科学とは考え方が違うので単純に比較したり、一方の分野からもう一方を解体しようというのは過まりですので注意です)を探求するという流れも徐々にではありますが出てきているようです。



さてはて本当にざっくりとした薬学話で、個別の薬剤などには触れていませんねー。ま、主旨が現代の薬学や医学の抱えている課題にもう少し意識的になることで、普段の生活や今後そちらの方面で活動しようという方の一助になるかなあという程度のものなので専門的な内容には入らずということで。
なおこの記事によって現代の薬学や西洋医学に問題・課題があることは述べましたが、だからといって訳のわからない治療にすがるのはやめましょう。医学も複雑で西洋科学の視点では説明できないというのは多々あり、東洋医学はその一例です。鍼灸は効果あると認められていますが西洋科学の知見からするとさっぱり全容解明できないものです。それとは別に「明らかに間違いなんですけど」と指摘されているものもあります。そこはきちんと専門家の意見を聞くのが大事です。


では今回はこの辺りで。医学関連はもう少し踏み込んだものもやりたいですね。何か思いついたらメモでもしておきます~。
by zattoukoneko | 2011-09-10 04:21 | 化学 | Comments(1)

髪の色を染めたことがあるのです。

昔一度だけ髪の毛の色を染めてみたことがあるのです。最近では数が減りましたが、私が大学に入学したての10年前とかはみんなやっていましたねー。
けど、私はこれに反感を持っていたのです。以前「私は差別主義者です」の記事か何かに書きましたね。体の一部を平気でいじるのってどうなのよ?!、と考えてました。
で私なりにどうしてこういうことが社会的に流行しているのだろうと仮説を立ててみました。で、その結果辿りついたのが「負のエントロピーの減少」だろう、と。
(おっと、記事タイトルを軽くしたのにいきなり難しくなる予感ww いいや、このままいきます)


「負のエントロピーの減少」とかあまり知らない方もいるかもしれないですね。一応高校の化学では(範囲からはずされているのですが)エントロピーについては必須の知識なのですけど。
まあ、まずはこのエントロピーについてから説明していきます。

エントロピーとは日本語にするなら「乱雑さ」とよく訳されているみたいです。これは自然のあらゆるものはどんどん乱雑な・混沌とした方向に進めば進むほど安定するのだ、というものです。(エネルギーの計算の仕方とかは難しいので省略。というか私自身よくわからん!)
化学の領域でいくと難しくなると思いますし、想像もしにくいかと思います。また今回は社会のお話なので、日常生活で説明していこうと思います。
一番わかりやすいのは小学生の運動会の予行練習の場面なんかですね。特に低学年の子たちなんかを考えてほしいのですが、とりあえず先生たちはきちんと整列するように指示を出します。が、このまま放っておくと子供たちってきっと列を乱して、そのうち遊び出しちゃいますよね? これがエントロピーが増加したということです。つまりどんなものでも放っておけばどんどん混沌とした状態になるということですね。
が、ここでもう少し想像し続けてみることにします。子供たちが遊びだして列を乱すと先生が叱りますよね。そしてきちんと整列させます。これ、子供たちにとってはとても窮屈=エネルギーを持て余して不安定な状態ということです。この形に無理矢理する先生の叱咤というのが「負のエントロピー」ということになります。その名の通り、エントロピーをマイナスにするのですね。
で、「負のエントロピーの減少」についてですが。
ようは負のエントロピー(マイナスにするもの)が減っているということなので、そこらのものはどんどん混沌としていくということですね。

髪の毛の話に戻りますが――
昔は髪を染めたり整形して体をいじることなんてのはいけないことだと言われてきました。ピアスですらダメだと言われていたのですね(で、後々記事にするかと思いますけど、ピアスの穴あけるのとかってとんでもなく危険だったりします。特に成長期の頃にやると後々まで後遺症が出るとされているくらいです)。
でもこういうのが普通の社会・時代になってきている、ということはこういうことを言い聞かせる親や周囲の人が少なくなってきているのだろう、というのが私の最初に立てた仮説となります。

ですがこれだけだと“仮説”なのですね? また私は偏見の目を持っているかもしれません。
そこで……自分でやってみたのです。ようは自分が実験台。本当に「負のエントロピーの減少」だけで説明がつくのだろうか?、と。
私自身は髪の毛を染めることに反対している人間ですから、負のエントロピーは働きまくってます。そして実際に髪の毛を染めるとき(お金ないから自分でやりましたが)、途中で滅茶苦茶後悔しながらやりましたね。頭は痛いし、においはきついし。また私の髪の毛は他の人よりずっと太いですから、脱色するの一回じゃ全然済まなかったです。三回くらいやったと思いますね。しかも箱の表示時間とか無視しまくりでw
このとき(頭が痛いとかもあるのですが)負のエントロピーの存在をひしひしと感じました。そしてやっぱり自分の仮説は当たっていたと思いましたね。
で、ここで実験は終了にしようと思ってました。すぐに髪の色を黒に戻そうかと。
でも試しにそのまま数日過ごすことにしました。あんまり色変えすぎるのも髪によくないって聞きましたし(実際頭皮痛かったですしねー。薬剤流すときに髪の毛がすごい痛んでるのに衝撃を受けましたから)。
そうしたら――私の意見変わることとなりました。

髪の毛の色変えてみたらですね、友人からの受けがよかったのですよ。なんか「田舎くさいの抜けたねー」なんて(いや、確かに田舎の出身だけれどもさ!)。
これにはちょっと衝撃で、そして「なんか仲間に入れた?」という感覚を覚えました。当時はみんな髪を染めてることもあってか、黒のままのほうが不自然だったんですね。私は色を抜くことで仲間内に入れたということになるのだと思います。

この「仲間に入れた」ということによる安定化エネルギーのことを、エンタルピー、といいます(名前紛らわしいですねえ)。
化学の場合であれば、周りが氷のような結晶構造をつくっているならそれに倣おうとします。またイオン結晶であればプラスとマイナスのイオンがお互いに引き合うことで安定化します。
これ、エントロピーの面から言えば不安定化していることになります。結晶として固まっているのですから。ですがその分を打ち消して、余りあるほどの安定化をエンタルピーの方がもたらしてくれるということになります。化学の分野ではこのエントロピーとエンタルピーのどちらが上回るかによって、その分子などの状態を把握することになります。
では社会ではどうなのか?
これに対して、私もこの考え方を適用することとしました。つまり社会の状態を「負のエントロピーの減少」なんていう一つの概念だけで捉えてしまってはいけないと。

確かに負のエントロピーが減少したということはあるのでしょう。だからエントロピーが増加しやすい方向にある。
けれども少なくなったとはいえ負のエントロピーは確かに存在するのです。それを破るためにはそれの代わりとなる安定化エネルギーが必要となるはず。そしてそれこそが「仲間入りする」というエンタルピーの効果によるものだと推測されました。
(ちなみにこのことを化学の講義のレポートでまとめたら高評価もらっちゃいましたw いいんですねえ、理科系の授業でこういうレポートだしてもw)


さてでは今の私の髪の毛の色についてなのですが――
現在真っ黒です。最初に述べたように一回だけしかやっていないのですよ、髪を染めるのって。
実験が終了したというのもあるのですが、負のエントロピーもやはり大事だろう、と。先に述べたように体をいじるのって危険が伴うものです。またどんどん好き勝手に社会が動き出して、混沌とした状態になったらいずれ取り返しのつかないことになる。社会は一種の“結晶”なのですから、バラバラになってもらっては困るのです。
ですから私は今、「差別主義者です」とあえて言っていますし、負のエントロピーを取り戻すべく色々調査・研究中です。またいずれはこういことを小説あたりでわかりやすく、次世代の人たちに伝えられたらそれはそれでとてもいいことなのではないかと考えています。その一つが『透明に 白く濁った 青空に』という作品です。まだまだ話が難しくて実現は遠そうですが……(←というかその前に発表の場を手に入れろ、という話が(汗))


さて現在上で書いてきたようなことを考えていますが、ですが“難しい”のですね? それは話が難しいということだけではなく、“判断するのが難しい”のです。
つまりある社会の現象について考察するとき、この負のエントロピー(およびエントロピー)とエンタルピーについて同時に考察していかなければなりません。また「私は差別主義者です」や「人権・平等問題」の中で述べたように、それが頭だけで考えていることなのか、心に根付くものなのか、また心に根付いていてもそこに偏見はないか(これは思考などが知らず知らず混ざって起きるものです)、それらを見極めていかなくてはならない。そうやって一つ一つ丹念に調べていかなくてはならないのです。これは大変な作業となります。

ところでこの「負のエントロピーの減少」というのは少子化問題で使われるのが通例です(私はわかりやすく他の例を出したのですね)。先進国になるほど子供をつくる必要性を感じなくなって、そのため少子化が進んでいるという理屈です。現在、少子化対策としてこの負のエントロピーを増やそうと国や運動家が活動しています。これは日本だけではなく世界中の先進国のあちこちで、です。
ですが私はこれには疑問です。この人たちは「負のエントロピーの減少」しか見ていないのではないか?、と。私はもっとエンタルピーの面や、『子供を生みたくない』と考えている人たちの心を丁寧に見てあげなくてはならないのではないかと、そう考えています(特に子供がほしくないと思っている人たちですね、この人たちはもしかしたら心の病を持っているんじゃないですか? それならば少子化対策よりもその心の治療に力を注ぐべきはずです。無理矢理子供をつくらせたら心の傷が広がっちゃうじゃないですか)。
まあ、こんなわけで世の中複雑です。色々な社会現象に関してみなさんできちんと(ただ一つの理屈だけで見るのではなく)考察してあげるとよいかと思います。色々と奥底に問題を現代の人々が抱えているのが見えてくるかと思いますよ?



…………やばい! やっぱり何か書き方を引きずっている?!
次回こそは、次回こそは何とか軽い話題を!!
by zattoukoneko | 2010-05-03 12:57 | 化学 | Comments(4)

氷の上はなぜ滑るのか?

氷ってつるつる滑りますよね? 私の実家があるところはど田舎で、一応道路は舗装されているものの、でこぼこで、冬にはそのくぼみにできた水溜まりが凍ってました。よくその上を滑って――そして何度も転んだものですw (でも東京に出てきてからはそういうのが道の上にあるのを見ないですね。せいぜい雪が積もり、雪かきされた後に若干凍っているくらい? でもあれも私の感覚では氷じゃないですからねぇ。今回の話題は現代の都会に住む人には実感わきにくいのかな? イメージしにくかったら机の上ででも氷の塊を滑らせてください)
で、氷の上は滑って当たり前と思う方もいるかもしれません。けれども他のもの、例えば塩素の氷(正確には、氷とは水の固体のことを指すので、ここでは塩素の固体と表現しないといけません。でも氷と言った方が伝わりやすいと思うので、以下の文章でもこのままいきます)は滑らないのです。普通の地面と一緒で、難なく上を歩くことができます。
一体水と塩素では何が違うのでしょう? 実はその原子間および分子間の結合と、それにもとづく結晶構造が異なっているのです。


さてまず原子間の結合について。
原子間の結合には大きく分けてイオン結合と共有結合、そして金属結合というものがあります。
イオン結合の場合、片方の原子から一つから数個の電子がもう一方の原子に奪われます。このことによって片方はプラス、片方はマイナスのイオンとなります。この場合、イオンになった原子は周りにいっぱい反対の電荷を持ったイオンを引きつけることによって安定化します。次は食塩NaClの結晶構造。
b0118096_6435924.jpg

なおこのとき周りにいくつ反対の電荷を持つイオンを引きつけられるかは、お互いの大きさによって決まります。それによってイオン結晶の構造には他にもいくつか種理があります(面心立方格子、体心立方格子、六方最密充填構造など)。これは、たとえばプラスのイオンがたくさんマイナスのイオンを引きつけたとしても、集まってきたマイナスイオン同士は互いに反発してしまうのです。だから限界がある。またマイナスイオン側にしてみればプラスのイオンをたくさん引きつけたいのです。だからお互いにバランスの取れる形を(瞬時に)見つけて結晶となります。
次に共有結合。これは片方の原子がもう一方の原子から電子を引きつけようとするものの、その力が足りなくて完全には奪いとれなくてできるものです。結果として原子はお互い分かれず、くっついてしまいます。そのときに電子軌道を共有するので、共有結合と呼ばれます。
b0118096_6442616.jpg

この共有結合によってできたものが分子です。イオン結合や金属結合によってできた塊は「結晶」という大きな塊になってしまいますので分子とは呼びません。
最後に金属結合。金属原子は最外殻にある電子を隣、さらに隣の電子へと、電子軌道をくっつけることでどんどん動かしていきます(まさに「自由」に動く電子なのです)。そのため金属原子はたくさん密集して金属結晶をつくります。なお金属が延展性、伸性、導電性、導熱性に優れるのはこの構造と自由電子の働きによります(この辺はセンターレベルの話ですので、理科系の高校生は自分で勉強しておいてください。今回は金属の話はあまりいらないので省略します)。
なお原子間の結合が上記の三つのどれになるかは電気陰性度(マイナスイオンにどのくらいになりやすいかの値)によって決まります。が、とりあえずはイオン結合の場合は金属原子と非金属原子、共有結合は非金属と非金属、金属結合は金属と金属でできると考えておけばしばらくはしのげます。さらにきちんと考えると、元素表で(左右方向に)離れているほどイオン結合に、近いほど共有結合になりやすくなります。これは右、上の方が電気陰性度の値が大きくなるためです(理屈は自学習してください。これもセンターのレベルです)。たとえばAgCl2は金属と非金属の結合ですが、むしろ共有結合に近いです(どのくらいの割合でイオン結合で、残りが共有結合なのかは双極子モーメントという概念を使って計算をします。一応高校の課程では外れていますし、大学の三年生くらいで習うものですが、難関校は平気で出すことがあります。一応説明つきですけれど)。ちなみに電気陰性度については大学受験で使うレベルではF>O>N=Cl>C>Hまで覚えておけば対応できるはずです。
b0118096_6451040.jpg

なおHの値が2.1となってますが、2000年かな? 2.2に改訂されました。

さて次に分子間の結合について。なお分子間力はその名の通り分子にのみ生じます。つまり共有結合してできたもののみです(イオン結晶や金属結晶はすでに「結晶」という大きな塊になるので存在しません)。
大体次のようなものがあります。強さの順番から言うと水素結合、極性引力、ファンデルワールス力、万有引力です。ただし万有引力に関しては原子は質量がとても小さいのでほとんど無視でき(大学では無視しませんが)、それよりずっと大きい電気的な力を主に扱います。(なお、高校の教科書ではファンデルワールス力と万有引力をまとめて「分子間力」と表記しますが、ファンデルワールス力は電気による力で万有引力は質量による力なので全くの別物です。また分子間力とは上に挙げたすべての総称です。つまり教科書は楽して説明していて、そのため高校生は余計に混乱するという事態を招いています。きちんとした参考書を買って自分の頭の中を整理しておいてください)
で個別の説明入る前に、分子間ではクーロン力という電気の力がメインとなるのでそちらの紹介から。
クーロン力は物理で習います(生物選択者でもクーロン力くらいは勉強しておくのが常識です)。式はF=k×q1q2/r^2。Fは力Force、kは比例定数で、q1、q2は互いの電荷。rは電荷間の距離です。つまり電荷の積に比例して距離の二乗に反比例するということ(これ重力と似てますね)。
で、個別の話に入るのですが、水素結合は今回の目玉なので後回しにし、まずは極性引力から。
極性引力とは極性分子間で働くものを指します。極性分子とは電荷に偏りが生じている分子のことで、上に描いた絵のもののような状態です。極性引力は次のように働きます。
b0118096_6454818.jpg

つまり負電荷を持つ側が別の分子の正電荷をもつ側に方向を向けてクーロン力を発生させます。この図では二分子ですが、(イオンのときと同じく)周りにはたくさんの分子が密集しています(ただしイオン結合などと比べてはるかに弱いので、結晶のような固体状態になるのは極低温でないとなかなか生じません)。
次にファンデルワールス力です。ファンデルワールス力もクーロン力によるものなのですが、極性分子、無極性分子どちらでも生じます。また力はとても弱いです。仕組みは少々難解なのですが……一応説明を試みます。
分子の中では絶えず電子が動きまわっています。そしてときには無極性分子であっても分子の内部で電荷の偏りが生じます。このとき近くに別の分子があると、それに引きづられて反対の電荷の偏りをつくります。このときに弱いクーロン力が働くのです。
b0118096_6461934.jpg

ただし、これはとても弱いものです。これから説明する水素結合はおろか、極性引力よりもはるかに小さいものです。
万有引力は――省略してもいいですよね。ニュートンでやりましたし。
最後に水素結合なのですが――今回は高校の内容で説明をします。大学では量子化学によるトンネル効果を用いて説明をするのですが、これは分子軌道の話であって高校の課程で習う原子軌道では説明がしにくいです。興味のある方は(あるいは難関校を受験する方は)大学の参考書などでざっと確認することをお勧めします。
さて水素結合はFH、NH3、H2Oで働きます(実際には他にもSO4,2-イオンなどでも働くのですが、こちらは無機などを詳しく勉強するときに随時追加していってください)。F、N、OはHとの電気陰性度の差がとても大きい原子です。そのため共有結合をして分子の形をとっているのですが、かなりイオンに近くなっています。つまりH側がら相当電子を引きつけているということです。そうするとHはもうほとんどH+イオンです。そしてH+イオンとはプロトン(陽子)そのものです。そのためめちゃくちゃ軽い。軽いということは多少の力で大きなエネルギーをもらえ、動きやすくなるということです。そのため近くに負電荷の大きい分子がくるとすぐにそっちへ向かって飛んでいってしまいます。
b0118096_6473178.jpg

ですが受け取った側は今度はプラスが大きくなってしまいます。なのですぐにH+を返してしまいます。そして返された方はまたH+を送りだします。そしてまた返されます。これを光速に非常に近い速度で繰り返します。ですのでほとんど結合してしまっている状態になるのです。なので分子間力でありながら原子結合にかなり近い。そのためこの力はとてつもなく強いのです。


さて原子間・分子間の力の働きに関してかなり説明がかかってしまいました。ですが化学においては基本中の基本ですので(でも整理できていない方が多いので)ざっと説明させてもらいました。
本題の氷の話に移りましょう。
水の氷は水素結合によってその結晶構造をつくります。これは上で述べたようにとても強い力で0℃なんていうとてつもない高温(化学では高温なのです)で固体になってしまいます。
ですが水の分子はちょっと湾曲しており(上の図で描きました)、このため結晶構造をつくるときにとても大きな隙間をつくってしまいます。この形はダイヤモンドや水晶と酷似しています。
b0118096_6482595.jpg
b0118096_6485339.jpg

で、面白いのはこの隙間が大きいということです。
水で氷をつくると膨張すると思います。ですが基本的にあらゆる物資は温度が下がるほどその体積を減らしていきます。温度が下がるごとに分子は密集し、理論上は絶対零度0K=-273℃で体積は消滅してしまいます(人工的に絶対零度は現在つくれませんし、仮につくれたとして原子の大きさなどがありますから消えることはないと思いますが)。ですが氷は例外で、温度を下げると(ある程度までは)膨張するのです。これは結晶構造をつくる際に隙間の多い形をとるためです。
この氷を上から押して圧力を加えるとどうなるか。
氷としてつくりだした結晶構造が崩れてしまうのです。それは固体から液体、つまり水に戻るということです。そのときに生じた水が潤滑油のような働きをし、そして氷とその上に乗った人を滑らせてしまうのです。
一方で塩素の氷などは普通に温度が下がれば体積を減らします。ですから圧力を加えたところで液体には戻らないのです。ですから潤滑油のようなものは生じず、したがって普通の地面を歩いているときと同じで単なる固体の上を歩いている感じになります。ですから滑らないのです。


ちょっと本題より化学の基礎知識の方が多くなってしまいましたね。ただ化学ってこのように物理の知識とかがんがん使わないときちんと整理できない分野なのです。ですからかなり話が難しくなってしまいました。
まあ、でもとりあえずは最後の本題のところだけ理解してもらえれば他人に話せる程度にはなるかと。
一応化学関連では他にも色々な話ができますが、無機や有機の話をするときには理論の方をかなりのレベルまで理解していてもらわないといけないので、ちょっと悩みどころです。
今歴史とつなげた話で簡単に説明できるものを探しているのですが……今度は歴史の知識が必要になってしまうのですよね(フロギストン説とか、ソーダ・ポタシュとか)。なので化学関連の話はちょっとつくりにくいです。
あ、でもこれ教えて、とか要望がありましたらできるだけ応えるつもりでいます。化学の知識は(今大分抜けちゃってますけど)一応受験期に大学卒業レベルまではざっと勉強しましたので。高校生向けにもかみくだいて説明可能です(でも訊いてくれた方には場合によっては相当な予備知識を要求することになりますが)。まあ、ご希望がありましたら気軽にコメントください。私も記事が増やせて助かりますから。


であ、今回の化学の話はこれでおしまいということで。
一応もう春ですから氷はほとんどないと思いますが、一年後の冬には氷で転倒しないように気をつけてくださいね。そして何より受験で滑ることのないように……(私はセンター会場の氷で滑り、そのセンター試験でも滑りましたよorz 私の二の舞にならないように祈ります)。
次回はその受験で滑ってしまないように成績の伸び方についてのお話をします。
by zattoukoneko | 2010-03-30 06:50 | 化学 | Comments(4)