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『世界を凍らす死と共に』1-2-1


   二.


 公園から離れてほんの少し。曲がり角を右に折れると同時、後ろから声をかけられた。
「お、御薗木君だ。おっはよー」
 振り向くと腰まで届く長い髪の女子生徒が、手を大きく振りながら早足で近寄ってくるところだった。俺には残念ながら色の濃淡くらいしか見えないが、話に聞いている通りなら、こちらと同じ茜色のブレザーに金色の校章を襟に留めているはずだ。校章は学年順に上から金銀銅となっていて、だから二年生の俺が付けているのは銀色のものになる。
「おはようございます、立花(たちばな)先輩。待っているのは見えたでしょうし、そんなに急ぐ必要なんてなかったのに」
 立花瑠美(るみ)という名の先輩と知り合ったのは昨年の秋のことだった。青葉さんが俺の母さんになる前のことで、ただ紹介だけはされていてまだ戸惑いを覚えていた。俺は『父さんが再婚を望むなら』と自分なりに整理しながら散歩をしていて、その途中一人だけでいる彼女に出会ったのだ。
 立花先輩は少し息を切らしながらそばにやってきた。それから心配してかけた俺の言葉をぱたぱたと振る手で軽く払う。
「このくらいならなんてことないって。むしろ運動不足が原因じゃないかってアタシは推測してるくらいなんだから」
「今日は徒歩での通学してるのもそれが理由ですか?」
「そう。車で送迎されるのに慣れちゃってたから、思い切るのも、お父さんを説得するのも苦労したけどね」
「でも長時間歩くのは難しいから車での送迎になったはずで……」
「いやまあそれはそうなんだけどね。大丈夫だって。無理はしないとの条件付きで許してもらったし、出掛ける前に調子が悪かったら素直に送ってもらうことにするから」
 立花先輩は口調こそ快活なものの、生まれつき体が弱く、体力もつかないのだそうだ。原因は未だにわからないらしい。言葉を交わしつつも、その身から滲み出る儚さを感じざるを得ない。
 先輩は一通り俺と話し終えると、隣にいる真琴へと視線を向けた。
「はじめまして、だよね? アタシは立花瑠美っていいます。御薗木君と同じ高校に通う三年生」
 話しかけられた真琴は視線を脇に逸らしながら小さな声で返した。
「……ども。許斐真琴です」
「あれれ、アタシあまり印象良くない? まあ二人がらぶらぶしているところに割って入ったらそうなるのも当然だけどさ」
「何言ってるんですか、先輩は……」
 俺は一つ溜め息を吐くと、改めて真琴のことを紹介した。
「小学校の頃からの知り合いで、許斐真琴っていいます。中学一年生で、途中まで道が同じだから毎朝一緒に登校してるんですよ。若干人見知りするので、ぶっきらぼうな挨拶には気を悪くしないでやってください」
 その紹介の仕方に不機嫌そうに唇をアヒルにする真琴。それを見た立花先輩が笑みを浮かべる。
「仲良しさんなんだね、二人は」
 今の真琴のどこを見てそう思ったのだろうか。いまいち俺にはわからない。もちろん仲が悪いわけではないけれど。
 いずれにせよ話を続ける俺と立花先輩に対し、真琴はだんまりを決め込んでしまった。少し気にかけていたようだったけれど、仕方なしに先輩は俺とだけ会話を続けることにしたようだ。学校への道を歩き出しながら話しかけてくる。
「昨日は部活の様子見せてくれてありがとう。前々から興味あったんだけど、覗かせて欲しいって頼む友人もいなくてこれまで機会がなかったんだ。だから本当に感謝してる」
 先輩は体が弱いために部活動は一切行なっていない。運動部の類はもちろんのこと、文化系の活動も自粛しているのだそうだ。
「御薗木君の絵はとても綺麗だったね。これは……言っても仕方ないことなんだけどさ、彩色がなされていないことをとても残念に思ったよ」
「色が見えていないですからね。それでも光の明暗くらいはわかるし、むしろ他の人よりそこに機敏になっている気がする。ならそこを上手く表現できれば、自分の欠点も武器に変えられるんじゃないかと鉛筆画や木炭画に挑戦するようになったんですよ。でもそう言ってくれて嬉しいです。色が付いたらどうなるのか興味を惹かれたってことだと思いますし、特に木炭を使うのは初めてだったんで、周囲からの評価は気になってたんです。面倒を見てくれている柊は褒めてくれるような性格じゃないし」
「柊紗樹さんか。彼女の絵も見せてもらったけど、荒々しくて力強い色使いが印象的だった」
 柊は油彩で今度のコンクールに出展する予定だ。水彩画も鉛筆画も、はてはアクリル絵具での絵も誰よりも上手いが、その中でも油彩画が最も素晴らしかった。実際時間をかけられて絵具を重ねられていく柊の絵は、日増しに重量感が大きくなっている気がする。だから立花先輩の語るその絵の色が見れないことを、俺は心底残念に思った。
「荒々しいっていうのはよくわかるかも。柊は気性の激しいところがありますからね」
 俺の言葉に立花先輩はその目を大きく見開いた。そして唐突な質問をしてくる。
「もしかして二人って付きあってたりするの?」
「え、なんでそうなるんですか?」
「だって気性が激しいとか、そんなことアタシには微塵もわからなかったし、さっきも面倒見てくれているとか言ってたから親しい間柄なのかなって」
「違いますよ。コンクールが近いんで指導してもらってるんです。学年も一緒だから部活に出る時間帯もほとんど同じですし、それにやっぱり技術力はすごいと思ったんでこちらからお願いしたという流れ」
 俺の説明に先輩は胸を撫で下ろす仕草を見せた。少し大袈裟に振る舞いながら、安堵の溜め息を吐く。
「驚いたー。御薗木君って女子にあまり興味なさそうだし、実際そういう噂も気配もとんとないから気を抜いてたよ」
 酷い言われようだが、事実その通りであるので反論もできない。まあ毎日登校を一緒にしている真琴も女子ではあるのだけれど、四つも離れているとそういう対象ではない。
 ほっとした様子を見せた立花先輩は、けれどすぐに表情を難しいものにした。
「でもコンクールの作業をずっと手伝っていて、時間帯も合うからってことは二人きりになることも多いんだよね。そういう状況が続くとやっぱり――」
 そこまで口にしたとき。
 急に立花先輩が体をくの字に折った。そして呼吸が大きく乱れる。
「先輩!」
 俺が慌てて顔を覗き込むと、苦悶の色を浮かべながらも先輩は笑顔を向けてきた。
「だ、いじょうぶ。それより、鞄の中から薬の入った袋と、お水、取ってくれない?」
 先輩の鞄は持ち主の手を離れ、足元に転がっていた。事態が事態なので構わず開ける。脇の方にあったペットボトルと薬が入っていると思しき白い紙袋を取り出し、先輩に手渡した。
 紙袋の中から錠剤を一つ取りだすと、先輩はそれを口に含んで少量の水で喉の奥に流し込んだ。それを見届けてから俺は声をかける。
「大丈夫ですか? 立っているのもつらいでしょうし、どこか座れるところへ」
「あはは、ごめんねー。急に心臓の発作が出ちゃったみたいで。まだちょっと動くのは難しいかな。申し訳ないんだけど、移動するの手伝ってもらっていい?」
 俺は頷くと先輩の肩に手を回した。真琴に俺と先輩の鞄を持ってくるように言いつけると、ゆっくりと足を運ぶ先輩の補助に専念した。
 近くにベンチなど都合のいいものはなく、仕方なしにマンションの前にあった花壇の縁に先輩を座らせる。その頃には容体も大分落ち着いていたようだった。
「うーん、油断してたかなぁ。心臓が締め付けられるような痛みを覚えるのってそんなに頻繁にあることじゃないから。さっき飲んだ薬も心臓の薬というわけじゃなくてね、精神安定剤なの。発作の原因がわからないし、今のところ効果があるのはこの薬しかないから」
「無理はしないでください。俺と出会うきっかけになったのも先輩が道の真ん中で倒れてたことなんですから」
「あの時は本当にごめんね。それにありがとう。人通りの少ないところだったし、御薗木君に助けてもらえてなかったら今頃アタシはこの世にいなかったかもね」
「物騒なことを言わないでくださいよ。でもとりあえず今回はあのときみたいに意識を失ったりしなくて良かった。俺だけじゃどうしようもないですし」
 去年の秋に父さんと新しい母さんのことを整理しながら散歩をしている途中、町外れにある森の近くの道で一人の女子が倒れているのを発見した。それが立花先輩だった。走り寄ったときにはすでに意識はなく、呼吸もしているのかしていないのかわからない程度に弱っていた。急いで救急車を呼び、電話で指示される通りに介抱。その後到着した救急車に、同行してくれる人がいないからと俺が一緒に乗ったのだ。病院に着いてしばらくしたらある程度状態も安定した。目を覚ました先輩と、連絡を受けた親御さんが慌てて病室に来るまで、ベッド脇から言葉を交わした。
「でも原因不明だしね。心臓だけじゃなく喘息の発作も出るし、ひどい頭痛が出ることも骨が軋みを上げることもある。物騒な言い方に聞こえるかもしれないけど、アタシはいつ死んでもいいと覚悟しながら毎日生きてるからさ」
 運動不足が原因ではないかという推測を先輩が立てるなら、俺はその諦観が原因だと推論することにしたい。もちろん根拠はないし、むしろ病気の原因というよりも、病から派生した気持ちの問題を解決して欲しいという想いに近いものではあったけれど。
 俺が上手い言葉が見つけられずに黙っていると、それまで黙っていた真琴が急に口を開いた。
「そうやって苦しみながら生きてるのってイヤじゃない?」
 率直な物言いに先輩も少し驚いた様子ではあった。けれどすぐに普段の表情に戻って返事をする。
「正直に言えばイヤだよね。ただこれがアタシの生まれた境遇で、仕方のないものだと思うようにはしてるんだ。恨み事ばかり言っていても何も始まらないし」
 しかし先輩はそこまで話してから急に顔に影を落とした。
「でも……世界が変わればいいのにとも思っちゃうよ」
 先輩の苦しみを俺は知らない。他の人と違う体だという点で、色が見えないということからある程度類推は出来るだろうけど、それは推察の域を出ない。ただ俺も色が見えたらいいのにと何度も乞い願っているし、体に痛みや苦しみの出る先輩は尚更なのかもしれないとは思った。
 どこから飛んできたのか知らないが、クマゼミが弱々しい鳴き声を俺たちの上空で奏でた。そして真琴がぽつりと一言だけの返事を返す。
「そう」
 猛々しい夏の暑さはまだ続いており、しかし着実に終わりに近づいている。そんな気配が周囲に立ちこめていた。


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by zattoukoneko | 2013-04-07 07:10 | 小説 | Comments(0)

『世界を凍らす死と共に』1-1-1


   一章


   一.


 ブレザー型の制服に身を包み、ネクタイを結びながらリビングに降りてくる。そんな俺をコーヒーのいい香りが出迎えてくれた。コーヒーメーカーを使用した人物の姿は室内になかった。けれどすでに朝食がテーブルに並べてあるし、すぐに戻ってくるのだろう。そう判断すると、椅子に座って終わりゆく夏の日差しを浴びる。
 目の前ではブールタイプのフランスパンとベーコンを付けた目玉焼き、それと足がきちんと開いていないタコさんウインナーが出番を待っている。料理としては簡単な部類に入るものだが、これだけ準備が出来るようになるまではそれなりに険しい道のりだった。父さんが他界したときは正直どうなることかと思ったし、昔のように俺が家事を担当するとも申し出た。それでもこれからは自分がやることにしたいと母さんが強く要望したから任せることに決めたのだ。
 二ヶ月も経てば非日常も日常になるものだ。そんなことを考えながら、未だ去らない眠気を何とかしようと伸びをする。ちょうどそのときリビングのドアが開いた。
「ごめん、待たせちゃってー。ご飯作ってるときに頭の上に卵落としちゃったからシャワー浴びてきたの」
 どうやったら卵を頭の上に落とせるのか甚だ疑問ではあったのだけれど、それよりもまずは母さんの格好に困惑の声を上げざるを得なかった。
「毎回言ってるけど、タオルを巻いただけの格好でうろつかれるのは……」
「うーん、確かに言われているんだけどさ? 私はそこまで気にすることかなって思うんだよね。だってお母さんなわけだし」
 言いながら母さんは俺の目の前までやってくる。そして前屈みになり、椅子に座っている俺と目の高さを合わながら訊いてきた。まだ湿り気を帯びた、緩くウェーブする髪。それが体の前に垂れて、鎖骨の辺りでちらちら揺れる。
「それとも本当のお母さんじゃなくて、元は赤の他人だからやっぱり気になったりしちゃうのかな?」
 つぶらな瞳に似合わない悪戯な笑み、そしてタオルの隙間からのぞく水を弾く双房が母の若さを否応なしに伝えてくる。母さんは御薗(みその)木(ぎ)青葉(あおば)という名前で、今は亡き父さんが二人目の妻として迎えた女性だ。姓は結婚したときに変わっていた。そして俺より年下だったりする。
 からかってくる母さんに俺はきっぱり答える。
「最初はさすがに戸惑ったけどね。でも母さんは母さんだと思ってるからそういうのはないよ。ただ年頃の若い女の人なのは事実だし、注意した方がいいとは感じてる」
 それを聞いて憮然とした表情になる母さん。
「釈然としなーい。若くて年頃の女性と見てるなら、気になって自然だと思うんだけど」
「また無茶なことを。仮にそれだけで反応してたら、俺が見境ない人ということになるじゃないか」
「鏡夜(きょうや)くんはそうやってすぐに理屈で説得しようとするからなぁ……」
 このまま続けていたらキリがない。膨れっ面になる母さんに話はこれでおしまいと告げ、服を着てくるようにリビングから送りだした。そして今度はきちんと服を着た母さんが戻ってくると、ようやく二人揃っての朝食となった。
 母さんは自分でつくった目玉焼きの中央部分に箸を刺し、溢れ出る黄身に「半熟に出来たー」と喜ぶ。その様子を見ながら、今日は学校の帰りが遅くなることを思い出して告げる。
「コンクールが近いからね。その追い込み作業してくる」
「うん、わかった。出展する作品は今回も鉛筆画なの?」
「鉛筆画じゃなくて木炭画。彩色していないところは同じだけれど」
 デッサンでは昔から柔らかい鉛筆や炭が使用されてきた。硬い鉛筆より濃淡が出しやすいからだ。さらに木炭は後から消しゴムをかけることでぼかすことが容易で、光による明暗も豊かに表現できる。そうした理由から最近ではデッサンに留まらず、完成された作品として受け入れられつつある。
 けれどしょぼくれた様子で母さんがつぶやいた。
「正直な感想を言うと、私は鏡夜くんの絵には色があった方が素敵だと思うんだけどな……」
 確かにコンクールで広く募集されているのは色彩画だし、そちらの方が受賞枠も広い。賞を狙ったり今後も絵画を続けようと思うなら、木炭画に偏らずに色彩画に挑戦した方がいいのは確かだろう。
「でも俺の場合、彩色するのは無理だからね」
「うん。それはわかってるんだけどね」
 俺には色が見えない。判別できるのは濃淡だけで、今はほとんど使われなくなった言葉ではあるけれど、色盲と言った方が状態は伝わりやすいかもしれない。視力の方は正常なのだが、一切の色の識別が出来ないのだ。
 それは先天的なものではなかった。小学校の中学年くらいまでは色が見えていた。しかしあるときを境に急に世界から色が消えた。
「前のお母さんが亡くなられたときだっけ?」
「それから少し経ってからだね。まだ幼かったし、ショックが大きかったのが原因だろうと思う」
 美術部に所属し、そして彫刻などではなく絵画をやり続けているのは、まだ色彩というものに対して未練があるからだ。俺はそれを取り戻すことを願っているし、ならば色が近くにある状況に自身の身を置き続けるのがよいだろうと感じていた。
「話を聞いていると他の『色』もあるみたいだけど?」
「……そっちの色についてはまだ当分の間は関心持たなくていいかなと思ってるんだけどね」
 にやにや笑いで茶化してくる母さんに溜め息混じりに答える。
 元々美術部は女子の比率が高い。うちの高校に限らず他校も事情はさほど変わらないと思う。男子は昔から人気のバスケットボールや野球、サッカーなどに流れやすい。俺のような事情があるのは稀だとしても、前から美術をやっていて得意だったりしないと入ってくることはないようだ。
 母さんが言っているのは柊紗樹(ひいらぎさき)という同級生のことだった。夏休み前の引き継ぎで部長となり、今回のコンクールでも注目株として名前が挙がっている。一緒に作品を仕上げながら、俺が応募しようとしている絵にアドバイスをくれていた。ただ母さんは柊に実際に会ったこともないし、そういう人がいるとしか伝えていない。
「けど私なんて鏡夜くんより一つ年下だけどお母さんになってるんだよ? 鏡夜くんだって年頃の男の子なんだし、薄暗くなった人気のない部室で押し倒しちゃったりとか――」
「ないよ、絶対に」
 あまりに繰り返されるので、母さんは色ボケしているのではないかとすら思ってしまう。俺は中言して否定する。それから柊の性格を知らないからそんなことが言えるんだと嘆息した。もちろん他の女子相手にだって俺はそんなことしない。そもそもそういう目で他人を見るって失礼なことじゃないだろうか?
「うーん、一般的にどうこうじゃなくて。鏡夜くんの抱えている問題の一つって気がしてるんだけどなぁ……」
 恋愛事に関心がないのが『問題』と言われるほどのことだろうか? 母さんの真意が俺には量りかねた。俺も押し黙ってしまい、ちょっとした沈黙がリビングに下りる。ちょうどそのときインターフォンが鳴った。
「あ、もうそんな時間か」
 壁に掛かっている時計を見て食器を片付ける余裕はなさそうだと判断する。母さんにそれを謝ると、俺は通学鞄を手にして椅子から立ち上がった。


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by zattoukoneko | 2013-04-07 07:08 | 小説 | Comments(0)

『世界を凍らす死と共に』0-0-0


   序章


 吐く息が、白い。
 気温がぐんと下がって指先が痺れたようになっている。感覚はすでになくなっていた。氷のようなその指の上に雪のようにひらひらと藤の花びらが舞い落ち、瞬時に凍って砕け散る。
 粉々になった薄紫色の花が私の抱き続けている死体を彩る。普段着飾ることのない彼にはその装飾は似合わないように思えた。実際何日間着続けているのかわからない薄茶のスーツに多少の明色が差したところで、さして華やかさが増したようには感じられなかった。
 いつかこうなるだろうという予感はあった。彼と付き合うことを決めたときに覚悟したことでもあった。だから出会いから別れまでせいぜい一年程度しかなくとも、そのことを不満に感じたりするはずもない。
 ただ他には誰もいなくなった夜の公園で、冷たくなりながら満足そうに微笑んでいる彼の顔を見て呟かずにはいられなかった。
「どうして、そんな顔してられるのよ……」
 頬を伝う涙が火傷しそうなほど熱い。それでも腕の中に抱かれている彼の顔の上に落ちた瞬間、滴は砕けて周囲にきらめいた。死んだ人間を包む厚い氷は融けることなく、彼も生き返ることはない。
 氷と涙と彼の笑顔が、すべては終わったのだと告げていた。
 これが一つの結末なのだ。それも彼の望んだ最良の結果なのだ。私にはそれがわかっていたし、関わった者としてわからなければならなかった。
 ――たとえそうだとしても。
「それは私の望んだハッピーエンドじゃない」
 想いを言葉にした瞬間、必死に堪えていた嗚咽が止まらなくなった。涙が溢れ、声が氷漬けにされた公園に木霊する。


   『世界を凍らす死と共に』1-1-1へ
by zattoukoneko | 2013-04-07 07:06 | 小説 | Comments(0)

『世界を凍らす死と共に』掲載開始

長編小説『世界を凍らす死と共に』をブログ掲載しようと思います。
2012年4月に募集〆切のあった第19回電撃大賞に応募した作品で、一次選考は通過したもの。

読み返してみて「文章下手だなー」と思わず言ってしまったのですが、ラストまで読んで「ああ、そういう意図があったのか……」と。
書いた本人が何故忘れてるんだって話ですね(汗)
文体は回想調一人称などと呼ばれる類のものです。一人称なんだけど、過去形だったり、説明になっているものが多く、その本人の気持ちがわかりにくいというもの(代わりに文体が重く、もっと良く言えば格調高くなります)。
私はあえて主人公に感情移入して欲しくなかったみたいですね。読者が物語に入り込みにくくなるので本来ならNGなんですが、それをトリックというか仕掛けとして用いたかったようで。
主人公の目を通して物語世界を見つつも、その人も読者とは距離がある一人の人間として置いておきたかったようです。それを埋めようとしたとき、主人公やその他の登場人物が一層生きた感じがする――その効果を狙っていました。
そんなことやってるから二次選考で落ちるんですけどね。

この試みは面白いと思ったので、ブログの方に掲載しようかと。
リライトするにもその意図がわかってしまうと難しいし、何より面d……というのは冗談で、登場人物が魅力的だったのでこのまま埋もれさせてしまうのもなーと。
(どうやって書き直すかな、ぶつぶつ)
ちなみに読んでいくと登場人物への印象や愛着がかなり変わるようです。そういう声が出てきたということは、上記の試みはある程度成功したということかしら?


長いので何回かに分けて掲載します(全部で原稿用紙332枚)。
振ってある番号は章・節・項の順。1-3-2だったら、一章三節二項の意味。各章四節に別れていて、各章は二つの項に分けてあります。序章だけは短いので分けてませんが。
全部で四章(+序章)なので33回分です。もしよろしければ、お付き合いくださいませー。
by zattoukoneko | 2013-04-07 07:01 | 小説 | Comments(1)

【期間限定公開】『雪の音に沈む街』オマケエピソードPart. 12

 雪音の腕の中にいる白ウサギはすでに意識を失っていました。後ろ脚の傷はかなり深いようで、シロの体も、雪音の服も、真っ赤に染まっています。
「お母さん、どうしよう……」
 このまま何もしなくてもシロは死ぬでしょう。運良く助かったとして、その脚はもう動かないと思います。
 山の神はこの子を殺せと言っているのだと、お母さんは気付きます。人間ではありませんが、この白ウサギも温かいものです。流れ出る血は確かに熱く、そして雪音と共に生活を豊かなものにしていました。ですからこの子を冷たくすれば、雪女の力が戻ってくるのでしょう。
 お母さんは、静かな声で雪音に伝えます。
「これ以上苦しまないよう、シロちゃんを楽にしてあげましょう」
 シロに対して思うところがないわけではありません。むしろあるからこそ手にかけることに意味があるのでしょう。
 雪音と共に長く暮らしたいのです。大事な娘が成長していくところを見ていたいのです。何より二人でいることが幸せなのです。
 無益な殺生をしてはいけないと言われるかもしれません。少しでも縁を持ったならば、それを大事にしろと言われるかもしれません。楽にするという言い訳でもって、生死を他人が勝手に決めるなと言われるかもしれません。
 けれど、それは雪音との生活以上に大切なものでしょうか? 娘と生きていくこと以外に、望むことなどあるわけないではないですか。
 なら、シロを殺します。冷たく、固く、凍らせましょう。
 心を決めると、お母さんの体が冷気に包まれました。この前はうまく力が使えませんでしたが、今日は十分に冷えています。心も体も、雪女として氷漬けにされていくのを感じます。それだけお母さんの想いは深かったのです。
「お母、さん?」
 けれど雪音は戸惑った声を上げました。それから雪女の鋭い冷たさを感じると、洞の隅へと駆けていきました。
 戻ってきた雪音は、手に何かを持っていました。それが何か、お母さんが気付く前に、口に押しつけてきました。
「!?」
 口の中に甘くて冷たいものが広がります。雪音が大きな声で言いました。
「雪見だいふくっ!」
 お母さんは何をされているのか意味がわかりませんでした。
 でもそれ以上に雪音が意味がわからないと叫びました。
「お母さんの考えてること、よくわかんない! 私はシロちゃんを助けて欲しいの! 苦しいかもしれないけど、生きてて欲しいの!」
 雪音は大泣きしていました。そしてその顔を見て、お母さんは自分の過ちに気付きました。
 娘と一緒に生きていたいと、心の底から思います。そのためにはどんな犠牲だって厭いません。けれど横に並んだ雪音が、こんな顔をしていたら自分は幸せでしょうか?
 お母さんは心の中で謝りました。そしてありがとうと言いました。
「待っててね。すぐにシロちゃんを助けるから」
 お母さんは改めて雪女の力を集めました。手の先が冷たくなっていきます。
 傷を治すことはできません。けれど傷口を氷で壊死させて、それによって血を止めることならばできるはずです。
 ただシロの脚はもう動かないでしょう。それを引きずったまま、山の中で暮らしていくのは無理だと思います。それなら苦労するかもしれませんが、脚を切り落としてしまった方がいいのかもしれません。
「雪音、ちょっとの間後ろを向いていてね。見ていると雪音まで痛くなってしまうから」
 雪音は悩む素振りを見せましたが、すぐに言いつけ通りに体の向きを変えました。お母さんが優しい笑みを浮かべていたから、それを信じたのです。
 それからお母さんは雪女の力を使いました。一匹の白ウサギを助けるために、その力を使いました。

 その夜、お母さんは夢を見ました。夢の中で、山の神が語りかけてきました。
――私は山の神だ。人の神ではない。だからユキを人間に戻してやることはできないし、お前が生きたいと望むのならば、雪女としての冷たさを与えてやることしかできない――
 その言葉にお母さんは答えます。
「お心遣い、有り難うございます。私の望みを叶えようとしてくださったのですね」
――私は何もしてやれなかった。ユキが冷たい心を取り戻さなければ、雪女の力を持つ器として適わないからだ。心と相反する力を無理に押し付けることはできない。だから雪女の心を取り戻せるようにと考えたのだが、結果としてお前たちを傷つけてしまっただけかもしれないな――
 それから少しの間を挟んでから山の神は訊いてきました。
――けれど本当によかったのか? 今のままでは遠からずユキは死ぬ。自分の内に宿ったその温かいものによって。病に伏せることも多くなり、そして娘と離れ離れになってしまうのだぞ――
 お母さんはうなずきました。夢の中ですから雪音の姿は見えません。でも隣ですやすやと眠っていることでしょう。その様を思い浮かべることは容易にできました。
 山の神に、お母さんは温かな笑みを見せて言います。
「雪音は私の事情を知りません。教えることもないでしょう。ですが、もし私の抱えているものを知ったなら、今日訴えかけてきたあの言葉を口にするような気がします。苦しいかもしれないけれど、でも生きていて欲しい、と」
――……そうか――
 そう山の神はつぶやくと、すっと姿を消しました。静かな夜の帳が下りて、お母さんは穏やかな夢の中に身を委ねます。
 山にある小さな洞の中、二人の母娘が幸せそうに寝息を立てていました。

   *おしまい*
by zattoukoneko | 2012-09-21 23:59 | 小説 | Comments(0)

【期間限定公開】『雪の音に沈む街』オマケエピソードPart. 11

「お母さん、大丈夫?」
 床に寝そべるお母さんに、雪音が心配そうな声で尋ねてきました。
「ええ、大丈夫よ。それよりもごめんなさいね、また一緒にお散歩に行けなくなってしまって」
「最近多いね」
 その日の朝は靄が出てかなり冷え込みました。普段であれば自然に発生する冷気は雪女であるユキに活力を与えてくれるはずでした。けれどお母さんの具合は悪かったのです。
 雪音の言うように、寝込む頻度も高くなってきていました。秋も深まってきたのに、夏より体が動かせていない気がします。
 ただそうなることは予期できていたことでした。半分人間である雪音を受け入れ、そして人として育てることを決意してから、こうして温かさに雪女の部分が消されてしまうことは、遅かれ早かれ必ず訪れることだったのです。
「今日は一人でお散歩してきてね」
 お母さんはせめてもと、笑顔で雪音を送り出しました。
 死ぬ覚悟はできています。かわいい一人娘を残して先立つことに、心は強く締め付けられます。それでも最近より一層思うようになりました。この子と一緒に生きることを選んで良かったと。幸せな母娘の暮らしができていると感じるのです。
 雪音が洞の出口から外に出ていき、姿が見えなくなってから、お母さんはゆっくりと目を閉じました。死ぬ覚悟はできているとはいえ、自分から早く死のうなどとは思っていません。体調を良くしてまた雪音と楽しい日常を過ごすのです。
 体から疲れが抜けていないのか、眠りに落ちるのはあっという間のことでした。
 その夢の中。
 お母さんは随分昔に出会った存在と対面していました。
 姿は判然としません。しかし目の前にしているだけで、とても大きな重圧感と、それが持っている強い力を感じました。人でも雪女のような妖怪でもない存在。それはこの山の神でした。
――久しいな、ユキ――
 山の神は夢の中でお母さんに話しかけてきました。夢は現ではありません。ですが神の力を持ってすれば、夢と現を繋げることなど容易でしょう。
「お久しゅうございます。いつかは私に雪女の力を授けてくださり、有り難うございました」
 愛していた人に裏切られ、お腹を痛めて生んだ子供も冬山の寒さで凍りつき、そのことに恨みを募らせながらユキ自身も息絶えようとしていたとき、この神は現れたのです。そして憎悪や殺意を凝集させ、山の冷気で固めてユキを雪女に変えました。
 そのことを恨んだことなどありません。雪女になることで生き長らえ、自分の為すべきこともできましたし、確かめたいことも知ることができました。
 それどころか新しい恋をして、雪音という娘をもうけることができました。時にはつらいこともありましたが、今ではとても幸せな日々を過ごせています。
――本当にそうだろうか?――
 けれどお母さんの思考を読んだ山の神は、疑問を投げかけてきました。それから胸の締め付けられる問いを発しました。
――娘と、もっと長く生き続けたいと思っているのではないか? それこそ寿命を全うするまで――
 山の神の言葉に、お母さんは苦しくなります。大人になる雪音の姿を一目でいいから見たい。そのことを何度望んだことかわかりません。
 ですが、すでに答えは決まっています。ただこの時を大事にしたい。そうすることで自分の寿命が縮まろうとも、雪音により多くの幸せを詰め込むことができたら、それだけで十分なのです。雪音を避けてまで、長生きしたいとは思いません。
――その寿命、長くする術があると聞いてもか?――
「……え?」
 お母さんは、山の神の言葉が理解できませんでした。この体が悪くなっているのは、雪女の冷たさが、雪音の持つ温かさに浸蝕されているからなはずです。ですから長く生きようとすれば原因となっている娘と距離を置く以外にないはずです。
――それも原因の一つではある。しかし総てではなく、そしてより大きなものは別にある――
 それからこんな問いかけをしてきました。
――ユキには娘である雪音の温かさの顕著に影響が出ている。一方で雪音はどうだろうか。彼女に雪女の冷たさは、果たして移っているだろうか?――
 言われてみればその通りです。雪音には、その父親に出たような症状は一切見られません。もう十年近くも一緒に暮らしているというのにです。雪音の半分は雪女ですが、裏を返せば半分は人間なのです。その部分に冷たすぎる雪女の影響が出ないことは不思議でした。
――ユキよ。お前自身が雪女ではなくなってきているのだよ。その心は温かい慈愛に満ち満ちている――
 つまりお母さんの方が雪女であることをやめたため、雪音への影響は少ないということでしょうか。一緒に暮らしていく中で、人間の心を取り戻したということなのでしょうか。
 ああ、きっとそうなのです。雪音との暮らしは幸せなものでした。一緒に母娘をしてきました。それはまるで人間のようにです。
――しかし、ユキの体は雪女のものになっている。心だけではないのだよ、雪女になったのは。だというのに、その心を温かいもので満たしていけば、体と乖離して動かせなくなるのは自然なことではないか――
 先日、崖の下に落ちていた雪音を助けようとしたときのことを思い出しました。雪女の力を使おうとして、しかし世界を凍らせることはできなかったのです。
 心が雪女のものでなくなってきているのだとすれば、体からうまく冷気を放てなくて当然です。目的を何としてでも成し遂げるという、結実した氷の決意が必要なのですから。
 山の神が言います。
――山の冷たさを司る者として、ユキの存在は大きい。そしてユキが長く生きることを望むなら、それを叶えよう――
 その言葉は魅力的なものでした。心が雪女のものになったとしても、娘を大事に思う気持ちをなくすことはないと断言できます。少し冷たさが出てしまうかもしれませんが、ずっと長く愛する雪音と暮らせる方法があるというのなら、それに手を伸ばしたいと思います。だからお母さんは問い返しました。
「どうすれば雪女の力を取り戻せるのでしょうか?」
――もう一度冷やし固めればよい。何も娘を手にかけろなどとは言わない。あの子はユキにとって大事な存在となっていることはわかっているしな。ただお前の心を温かくする者は娘だけではないはずだ。あとはこちらで準備を整えよう――
 それだけ告げると山の神は姿を消しました。同時にお母さんも夢から覚めました。
 寝てからそんなに時間は経っていないと思います。洞の中にいるため、どのくらいの時間が過ぎたのかはわかりにくいのですが。
 ただ夢の内容だけははっきりと覚えています。やはりあれは現と繋がっていたのでしょう。だからお母さんは心を固めます。
 雪音と共に暮らしたい。これからもずっと、幸せに暮らしたい。そのためならばどんな犠牲も厭わない。
 そのとき洞に雪音が飛び込んできました。涙を流し、顔をくしゃくしゃにして、お母さんに向かって叫びました。
「シロちゃんが大変なの!」
 雪音の腕の中、一匹の白ウサギが抱えられています。そのウサギも、そして娘の服も真っ赤に染まっています。後ろ脚に大きな裂傷が走り、血が大量に溢れているのでした。
 シロはまだ生きていましたが、意識はもうないようでした。
 お母さんはそれを見て、納得しました。
 この温かい塊を、冷たい氷に包んでしまえばいいのだと。そうすれば雪女の力が帰ってくるのだと――

   *つづく*
by zattoukoneko | 2012-09-20 04:32 | 小説 | Comments(0)

【期間限定公開】『雪の音に沈む街』オマケエピソードPart. 10

 お母さんは、その日体調があまりすぐれなかったので、大事をとって洞で休んでいました。体を動かすこともできますし、外に出かけることもできたでしょう。ただ元気のないまま雪音と一緒に歩いても、娘を心配させるだけだと思ってやめたのです。
 その判断が、あのような事態を招くとは思ってもいませんでした。
 お昼と夕方の中間。洞の中に飛び込んでくる姿がありました。それに気付いてお母さんは問いかけます。
「あらシロちゃん、慌ててどうかしたの?」
 シロは上半身を起こしたお母さんのところまでくると、頭をぐいぐいと押しつけ始めました。
 それは普段しない行動です。懐いている雪音に対しては、よくくっついて遊んでいました。でもお母さんの方には自分から体を寄せることはありませんでしたし、ましてやこんなに力強く頭で押してくるなんて初めてのことです。
 何だか、胸騒ぎがしました。
「何かあったの? 雪音は一緒じゃないの?」
 お母さんの言葉に、シロが顔を上げます。その口に赤い木の実の髪飾りがくわえられていました。
 雪音の、髪飾りでした。
「雪音?!」
 雪音がその髪飾りを外したことなど、今まで一度もありませんでした。せいぜい寝るときに邪魔にならないよう、隣に置くくらいのものです。母とお揃いの髪飾りを、とても大事にしていましたから。
 娘の身に何かが起きたのは明白です。お母さんは急いで立ち上がると、洞の出口へと向かいました。
 シロもそれに続き、しかしすぐに追い越すと少し先で止まって振り返りました。
「雪音がいるところに案内してくれるのね?」
 問いかけに、シロは再びある方向へと跳ねていきます。そしてある程度進んだところでお母さんを待つということを繰り返しました。
 あ母さんはできるだけ急いで山の中を進んでいきました。体が重くて、心ばかりが焦ります。
 しばらくしてシロに連れられたお母さんは、崖の上にやってきました。それほど急なものではありませんが、人が登るのはまず無理でしょう。
 そんな崖の下、雪音の姿がありました。
「雪音!」
 喉も裂けんばかりにお母さんは叫びました。
 けれど呼びかけに娘はぴくりとも動きません。今いる場所からでは目を覚ましているのかどうかも、怪我をしているのかどうかもわかりません。
 シロが崖を下りていきました。でもお母さんには無理です。回り道をしなければなりません。
 でも娘のことが心配でした。一分でも一秒でも惜しいと思いました。
 だから、雪女の力を使うことを決めました。
 お母さんは心を冷やしていきました。雪音を愛おしいと思う気持ちを、今だけは忘れることにしました。ただ助けるという目的だけを意識します。
 心が凍りついていくと同時に、体も冷気に包まれます。それでもって氷の道を作ろうと考えました。
 左手を静かに振ります。周りが氷の粒で輝いて、そしてそれだけでした。
「?」
 もう一度辺りを凍りつかせるべく腕を振ります。けれど体の周りにある水蒸気を氷に変えることしかできませんでした。
 お母さんの心に焦りが生まれました。それではいけないのに。動揺していては余計に世界を止めて凍らせることなどできないのに。
 でもどうして雪女の力が使えないのかわかりません。悩めば悩むほど、時間は過ぎていきます。
 意を決すると、お母さんは崖へ身を躍らせました。自分の足で進むことなどできません。転倒し、体のあちこちを軋ませながら落ちていきます。
 ようやく落下が止まり、崖下に到着しました。起き上がると雪音の元へと向かいます。腕も脚も背中も痛みます。でも歩くのに問題がないなら気にしている暇などありません。
「雪音?」
 娘の隣に膝をつくと、そっと名前を呼びました。
 見たところ大きな怪我はないようです。頬にあるかすり傷が目立つくらいでした。
 こちらの呼びかけに、雪音がようやく目を開けました。
「……お母さん?」
 娘の声が聞けてほっとしました。胸を撫でおろしながら、お母さんは問いかけます。
「大丈夫? どうしてこんなところにいるの?」
 訊かれた雪音は、上半身を起こし、きょろきょろと辺りを見回します。それから答えました。
「んー、わかんない。おやつにアケビを食べて、お昼寝してた」
 では寝ていた場所が悪かったということでしょうか。雪音も覚えていないようですし、詳しい状況はわかりません。
 ただ無事であることは確かなようです。なら構いません。少し注意をしておくことは必要かもしれませんが、それは些細なことです。お母さんは雪音に手を差し出すと、一緒に立ち上がります。
「痛いところはない? おかしいなと思ったら無理せずに言うのよ?」
「うん!」
 何だか雪音は嬉しそうです。手を繋いで帰り道を一緒に歩くことが、楽しくて仕方がないのかもしれません。それに今日はシロも一緒でした。洞までの道を案内してくれるのか、少し先をぴょんぴょんと跳ねていきます。
 繋いだ手は温かく、心を落ち着かせてくれるものでした。
 けれど雪女の力が使えなくなっているという事実が、胸をざわつかせて仕方ありませんでした。

   *おしまい*
by zattoukoneko | 2012-09-19 20:36 | 小説 | Comments(0)

【期間限定】『雪の音に沈む街』オマケエピソードPart. 9

 お母さんは困っていました。
「あーうー」
 すぐ隣では、綺麗に色付いたカエデを口にして、雪音が残念そうにうめいています。
 最近ずっとこんな感じなのです。気になったものをすぐに口に運んでは、それが食べられるのかどうか確かめているようでした。
 赤ん坊とは違います。あくまで食べることが念頭にあって、どれなら大丈夫なのかを確かめているのです。食欲旺盛の、その向かう先が少し変わっているという感じでしょうか。
 ……食欲旺盛なのは前からですが。
 ともかく何でも口に運んでしまうのは困りものです。この季節は実りの時季でもありますが、すべてが人に食べてもらうようにはできていません。中には毒を持っているものもあるのです。
「見境なく山の植物を口に入れては駄目よ。特に茸は食べられるものとそうでないものの判別が難しいから」
 そうお母さんは注意しますが、雪音は困った表情を浮かべました。母の言い付けを守りたくないというわけではないようですが、自分なりの考えがあるようでした。
「料理をしたいの。できるようになればもっと食べられるものが増えると思うし」
「でも私は火を使うのが苦手だし……」
「うん、わかってる。だから私が作ってあげようと思って。アイスみたいに冷たいものは無理かもしれないけど、熱くない料理ならお母さんとも食べられるかもしれないし」
 お母さんは納得しました。火をほとんど通さなくても食べられるようなものを、雪音はずっと探していたということなのです。そしておそらくは、先日一緒に雪見だいふくを食べて、一緒に食事を楽しむということを覚えたのでしょう。
 それなら食材の知識を雪音に与えてもよいかもしれません。また山菜には灰汁の強いものが多いですから、それを処理する方法を教えることも大事でしょう。
 体冷たき雪女としては、物を食べることによって熱を持つことは好ましいことではありません。それでも時々なら娘と一緒の時間を過ごしてもいいかもしれません。
 お母さんは近くにあったヤマブドウを一粒摘まみ取ると、そのまま口の中に運びました。甘くて程良い酸っぱさが広がります。
「こういう果実はそのまま食べられるのが多いわよ。あそこにあるのはアケビね。種が多くてちょっと食べにくいかもしれないけど、とっても甘いの。散歩がてら食べ歩きしてもいいし、集めてきて食後の楽しみにしてもいいわね」
 それから今度は屈んでシイの実を拾います。
「ドングリやクリはよく食べるから知ってるわよね。シイの実は生でも食べられるし、炒って食べたり、茹でて柔らかくしたものをお団子にもできる。ちょうどこの辺りにたくさんあるみたいだし、拾って帰りましょうか」
 お母さんの提案に、雪音は喜んで頷きました。シイの実やクヌギを拾い集めながら、道中ユリの根なども紹介します。地面の中に埋まっているためか、雪音はそれを知りませんでした。
 洞に帰ってからは一緒にドングリで料理です。お団子を丸めながら、ヤマブドウやユキイチゴを合間に食べました。それは新しい母娘の楽しみでした。
 お母さんがお団子を茹でていると、雪音が不思議そうに訊いてきました。
「ねえ、どうしてカエデの葉っぱも摘んできたの? 美味しくなかったよ?」
「そうね、少しくらい調理しても美味しくは食べられないと思うわ。でも人が料理をしてきた歴史というのは長いから」
 出来上がるまで時間がかかるので、お母さんはちょっとはぐらかして答えました。
 これからカエデは塩漬けと塩抜きをして、食べられるのはちょうど来年の今頃になるでしょうか。かわいい天ぷらになって目の前に出されたら、雪音はきっと驚くことでしょう。その様子を想像して思わず頬が緩みます。
 ドングリのお団子がぷかぷかと浮き沈みするお湯は熱いです。湯気が顔にかかりますが、お母さんはそれが気にならないほど楽しい気分になっていました。
 ふと、雪音が声を上げます。
「あれ、私が料理するんじゃなかったっけ?」
 最初は自分が料理をしてお母さんと一緒に食べようと考えていたはずです。
 でもすぐに、まあいいか、と考えを改めました。お団子を丸めるのを手伝いましたし、これから一緒にご飯にもなります。
 それに何より雪音も楽しい気分で満たされていましたから。
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   *おしまい*
by zattoukoneko | 2012-09-18 23:08 | 小説 | Comments(0)

【期間限定】『雪の音に沈む街』オマケエピソードPart. 8

 その日ユキは病に倒れました。
 どこかが痛いとか、苦しい感じがするとか、そういうわけではありません。ただ体にうまく力が入らなくて、起き上がることすらままならないのです。
 これまでも具合が悪くなることはありました。けれどここまでひどくなったのは初めてです。しかも冬と呼ぶにはまだまだ早い季節。病状が悪化しているのは明白でした。
「お母さん、大丈夫?」
 いつかはこうなるだろうとは予期していました。雪音の父親にあたる人がこの山に足しげく通っていた頃にも、お互いの持つ温かさと冷たさが二人の体を壊していました。特に人間である父親の症状はひどく、最後の別れのとき、視力を衰えさせた彼はユキの表情をきちんと判別できないほどだったのです。
 別れてからは快方に向かいました。けれど雪音を生み、そして人として育てることを決意してから、再び体の調子は崩れ始めたのです。
「お母さん?」
 雪音が話しかけてきていることに、ようやく気付きました。笑顔をどうにかつくります。
「ごめんね、今日は一緒に外に出られないみたい。一人で遊んできてくれる?」
 そばに娘がいても何もしてもらうことはありません。むしろその温かさが近くにあると余計に具合が悪くなります。それなら一人で遊びに出かけてもらい、その間に持ち直すのが賢明でしょう。
 いつもの雪音なら母の言葉に従ったことでしょう。けれど雪音も日々成長しているのです。自分も床に伏している母を看病し、助けてあげたいと思うようになっていました。
「食べ物はお母さんいらないもんね。冷たいお水とか汲んでくる?」
 娘が心配してくれるのは有り難いことです。けれど何かをしようとしてくれることが、体の調子を狂わせるのです。
「私は大丈夫だから。でも静かに休みたいの。だから外に出かけてもらえる?」
 自分の病と娘の関係については話していませんし、これからも話すつもりはありません。訳を知ったら雪音は悩み苦しむことでしょう。それも悪いことではないのでしょうが、どうせ時間を使うのなら目一杯に楽しいことや幸せなことを、その胸の内に詰め込んで欲しいと思うのです。
 ですが今回は言い方が少し悪かったようです。雪音は母が自分のことを避けようとしていることを敏感に察知すると、悲しい顔をして洞の外へと出て行きました。
 ユキはすぐに後悔の念に包まれました。邪険にするつもりなんて毛頭ありません。大事な大事な一人娘です。けれど自分の体のことばかり気にしていて、扱いがぞんざいになっていました。
 謝りたいと思いましたが、動かぬ体で雪音の後を追うことはできません。ユキは諦めると、体から力を抜いて横になりました。
 かなり調子が悪くなっているのは確かでしたが、それでも今すぐに死んでしまうようなことはないでしょう。数ヶ月ということもないと思います。ただもって数年だとは感じました。どうやっても娘が大人になるときまでは生き長らえることは無理です。
 悲しくはありましたが、こればかりは仕方のないこと。ならば先のことを考えて暗い気持ちになっていても仕方ありませんし、体を治すことに専念すべきです。そうして元気になって、帰ってきた雪音を迎えたら先程のことを謝るのです。
 そう決めると、ユキは眠りにつきました。
 それからどのくらいの時間が経ったでしょうか。頭のすぐ横でかさかさと音がして、ユキは目を覚ましました。
 顔をそちらに向けると、一匹の白ウサギがいました。雪音が友達になったばかりのシロでした。
 シロは口に一輪のコスモスをくわえていました。それをこちらに渡そうと一所懸命になっているようです。体を起こすと、ユキは手を差し出して花を受け取りました。そしてどうしてこのウサギがそんなことをしているのか考えました。
 ウサギが自ら花を摘んでやってくるわけがありません。ならば誰かがこの子にお願いしたのです。
 その相手が誰なのか、そんなことは悩むまでもありません。雪音以外にいるわけがないではないですか。
 突き離されて看病ができないとなっても、雪音はずっと自分にできることはないかと考えていたのでしょう。そうして元気づけるために花を摘んで、でも自分は戻れないからと友達のシロに届けてくれるようにお願いしたのでしょう。もしかしたら今でも何かできないかと頭を悩ませているかもしれません。
 離れていても相手のことを想うことができるのだと教えられた気がしました。
 体のことがある以上、どうしても距離を置かなければならない日が出てきます。そしてその頻度は増えていき、やがて二度と会えなくなる日が来るのです。
 そうだとしても、雪音への想いはけして消えません。死んで体が融けてしまうなら、せめて雪を降らせてそのことを伝えましょう。
 シロが小首を傾げてこちらを見ています。それに気付いてユキは「ありがとう」と言おうとしました。けれど声が震えて、うまくくちにすることはできませんでした。

   *おしまい*
by zattoukoneko | 2012-09-17 12:51 | 小説 | Comments(0)

【期間限定公開】『雪の音に沈む街』オマケエピソードPart. 7

 今日は朝早くからお母さんとお散歩です。空は突きぬけるように青く、気持ちの良い晴れでした。陽が昇る頃にはきんと冷えた空気で満ちるほど気温は下がっていたのですが、今ではそれを感じることもありません。
 ただお母さんにとっては日差しが強すぎるのも困りものです。雪女でしたし、常に体を冷やし清めていなければなりませんでした。
 でも今日のお母さんは大丈夫そうでした。それに何か考えがあるようです。
 向かった先は鏡の湖でした。
 お母さんは湖の縁でしばらく何かを確認していましたが、やがて岸から湖面へと体を移してしまいました。
 湖の上からお母さんが呼びます。
「水が凍っているから乗っても大丈夫よ。この上なら涼しいし、ずっと一緒に居られるから」
 雪音はなるほどと思いました。氷の上ならば、下から反射した冷気を体に感じることができます。太陽の光は熱いままで、それほど澄んだものにもなりませんが、地面の上にいるよりは大分ましだと感じます。
 けれど雪音はなかなか下りることができませんでした。岸から足を伸ばしはするものの、湖面に付く前に引っ込めてしまうのです。
 いつもなら元気に、臆することなく、山を駆け回っている雪音です。お母さんは疑問に思い、それから理由に気付きました。
「大丈夫よ。お母さんも乗っているでしょう?」
 言いながらお母さんはぴょんと跳ねたというか、体をちょっと伸び縮みさせました。どうやら跳び上がるのは得意ではないみたいです。
 雪音は以前この湖に落ちて溺れたことがあるのです。お母さんのことは信じています。けれどどうしても怖かったのです。
 それにお母さんはすごく体重が気がします。ほっそりとしていて、色も透き通るように白くて。雪女であっても体重は人と同じようにあるのですが、お母さんの漂わせる儚さがそう思わせるのか、持っているはずの体重もほとんどない感じがします。
「むー」
 雪音は一つうなった後、意を決して飛び下りました。さすがに子供の自分の方がお母さんより軽いことはわかっています。だからあとは気持ちの問題でした。
 急に人が乗ったからか、湖面が揺れた気がします。けれど雪音は溺れることなく、きちんと氷の上に立つことができました。
 お母さんに手を引かれながら、雪音は湖の中央まで歩いていきます。周囲は広くなり、また足の下にある湖は深さを増していきます。鏡の湖は水が綺麗でしたから、氷も透き通っていて本当にあるのか不安になるほどでした。足にはしっかりとした感触が伝わってきてるのに、まるで水の上を歩いているようでした。
「怖い?」
 あまり雪音が足元を見ていないことに気付いて、お母さんが声をかけてきます。雪音は素直にうなずいて応えました。
「氷の先の湖は綺麗よ。一度見てみるといいわ。氷は丈夫だし、もし万が一にでも落ちてしまったらお母さんがすぐに助けるから」
 お母さんなら信じられます。氷よりもお母さんの決意の方がずっと固いことを知っていますから。
 雪音は繋いでいた手を離すと、そっと氷の上に屈んで四つん這いになりました。
 視線の先、湖の中が良く見えます。それは岸の近くとはかなり違った風景でした。湖底はずっと先の方にあります。生えているいくつかの枝は、どこからか流れてきたものでしょうか。小さな魚が手の届きそうな距離で泳いでいるのも見えます。まるで自分は宙に浮いているかのようでした。
「……あれ?」
 そこで雪音は不思議なことに気付きます。目の前にいる魚は動いていないのです。
「氷に閉じ込められちゃったみたいね」
「死んじゃってるの?」
「大丈夫よ。冬眠をしているようなもので、氷が融ければまた元気に泳ぎ出すわ」
「じゃあ、今のうちに捕まえて食べる?」
「えっと……氷の中だから掘り出すのは難しいかしら……」
 不思議なものを見たと思いながら、雪音は立ち上がります。普段と違う湖の姿は神秘的でした。でもやっぱりお母さんのそばの方がいいです。
 雪音は母に駆け寄ろうとして、しかしそこで思いっきり足を滑らせてしまいました。
「雪音!」
 勢いがついていたこともあって、雪音はそのままつるつると滑っていってしまいます。お母さんは自分まで転倒してしまわないようにしながらも、急いで娘の元へと向かいました。辿りついた先、雪音はきょとんとしています。不安になって声をかけようとしたら、大きな声で笑い出しました。
「面白ーい!」
 それから今度は自分の力で体を押し、氷の上を滑走し出しました。
 取り残されたお母さんは目をぱちくりさせます。
「えーと……」
 そういうことをしに来たわけではないのだけれど、怖がることもなくなったし、良かったのかしら?
 その答えはすぐには出そうにありません。
 とりあえず向こうの方まで行ってしまった娘を追いかけることにし、頭の中から疑問を振り払いました。

   *おしまい*
by zattoukoneko | 2012-09-16 21:26 | 小説 | Comments(0)


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