携帯のバッテリーを見てください

タイトルの通りなのですが、携帯のバッテリーを見てみてください。実際に手にとってみるかといいと思います。
これですね、実は――
     プレスされてつくられてるんです!!

いや、これの凄さがあまりよくわからない方が結構いるかもしれませんね(汗)
というかそもそも電池の仕組みってわからないかな? その辺りから順に見ていきましょうか。
次がよく見かけるマンガン電池の構造です。
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携帯のほうはリチウム電池なのですが、こっちの方が説明しやすいのでこちらを取り上げました。……といってもよくわからないですかね(汗) 簡略化した図を描いてみました。
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電池がどうやって電気をつくるのとかは……えっと、長いのでみなさんで復習をお願いしますー。ここから説明していくと本当に長くなるもんですから(さらに汗)
で、炭素棒の方が正極で、周りの金属膜が負極となります。そしてこの中に電解液が満たされているという構造です(電解液は今では通常ペースト状にかためられてますが)。電池の+のほうの出っ張っているのって、この炭素棒なのですねー。
リチウム電池はもう少し複雑ですが、まあ基本は一緒です。これと同じものだと考えておいてください。

で、大事なのは周りの金属の膜なのですが、これ、簡単に穴開いちゃうと中の液体が漏れ出しちゃいます。なのでそれなりにしっかりとしたものにしないといけないわけです。
で、携帯のバッテリーの話に戻るのですが、最初はこれを金属の板を溶接してつくろうとしていました。というのもプレス加工というのは(自動車とかつくっている映像を思い出してくれると助かるのですが)普通は大雑把で大きなものしかつくれないのです。とてもじゃないですけど電池のバッテリーのような小型のものは不可能とされていました。だから金属板を溶接して箱型にしようとしたわけです。
ところが溶接した部分はどうしても脆くて、そこから液漏れしてしまうわけですね。とてもじゃないけど使い物にならん、と。そう断念しかけていたところに――
   岡野工業
という町工場が名乗りを上げます。「うちならプレス加工でつくれる」と。
そして実際につくっちゃったわけです。この技術がないと今のような小型の携帯というのはそもそも生まれなかったということになります。というかそもそも“携帯”できるような代物にすらならなかった可能性があります。この会社の業績によって今のように携帯が普及した社会が生まれたということですね。

ちなみにここの会社、このプレス技術に関して特許をとらずに世界中に公開しちゃいましたw これ、そのまま持っていれば世界中の携帯のバッテリー製造を独占できたはずです。でも惜しげもなく他人に見せちゃったわけですね(当然のことながらこの技術が成功するまで相当な労力と時間をかけてます)。それでもこの会社の岡野雅行社長は別に構わないと思ったわけですね。「自分たちはもっと先のものつくっていくから」だそうです。これ、すごい自信ですねw 私ならここまでのことはできないと思いますw(ちなみに本当にもう先のものをつくりあげているそうですね。すでに社会から求められるものより先のものをつくってしまっているようです)

さてこの岡野工業というのは十人に満たない社員しか抱えていません。とても小さな町工場ということになります。またここからさらに大規模化するつもりもないそうです(これに関して後でもう少し述べます)。
このような町工場で、でも世界に誇る技術を提供している日本の会社ってたくさんあります。有名どころでは、PCにくっついているファン。これだけ小さなものをつくれるのは日本しかなかったのです。ようは全世界のPCのファン(粗悪品は除く)のすべてをこの工場がつくっていたということになります(ただ現在はどのようになっているかまではデータを持っていないのですが)。あるいは工場ではないですが科学実験するときに使うテーブルですね。精確な値を算出するためには地面に平行でなくてはなりません。また量子力学なんて分野が発展してきている現代では、ほんの少しのへこみですら許されません。今のところこのような真っ平らな台をつくる機械技術は存在していません。手作業でやってます。(私がこの人を知ったときにはかなりのご高齢でしたから今もきちんと活躍されているかわかりませんが)これができるのは世界でたった一人です。この方が世界中の科学実験のテーブル(さすがに学生が使うようなやつは違うと思いますが)をつくっているというわけです。あるいは将棋や囲碁の線を引くのも数人の職人だけができることです。この線は日本刀に墨をのせて引いていきます。普通に考えれば機械でやった方がきちんと平行・垂直に交わりそうなものですが、でも今は全然不可能だそうです(普通の人にはまったくわかりませんけれど)。また打ったときの感触も全然違うそうですね。私は――こんな高級な碁盤で石を打ったことがないのでわからないですがw(ちなみに高いやつは数千万とかするのですよ。日本棋院の幽玄の間とかにあるのってこういうやつです。んー、一つ欲しいw)
このように日本の町工場や職人の技術レベルというのはとてつもなく高いものだったりします。これの理由をきちんと説明しきった論文や本を私は今のところ見たことないのですけど、現実としてこういう状況があります。この点は日本が世界に誇っていいところでしょう。


さてはて、先にあげた岡野工業という会社ですが――
ボーナスとか100万とか平気で渡します。そしてそもそもの給料がやたらと高いです。

最近よく誤解している人がいるのですが、大学に行った方が高収入が得られると思っている人がいるみたいです。でもこれは大間違いで、高校卒ですぐに会社に入って勤め始めた人の一生涯でもらえる賃金と、大学卒で働き出した人の生涯賃金ってそんなに変わらないのです(高校卒の方は四年くらい先に働いてますしね)。また大学に行っている間、学費や下宿先のお金がかかりますから、それを考えるとむしろ少なくなるかもしれません。
じゃあ何故大学に行くかというと。ようはそれなりの大きな会社に入社するためです。それだけのために大学に通うわけですね(ちなみに大企業の方が仕事が楽だと思ったらこれも大間違いですね。人が多い分、それなりの業績をあげなければすぐに首を切られますから。町工場の方は確かに仕事はきついですが、仕事に成功するとかなりのやりがいを感じるそうです)。

さて先に張っておいた伏線を回収していきましょうか。町工場のような小規模の会社と、中規模・大規模の会社の決定的な違いについてです。
町工場とかは基本的に大卒の人なんて必要としてません。面接時にすぐにはじかれます。相手側にしてみれば四年間もの間余計なことを覚えてきた人間です。町工場は常に試行錯誤の連続、大学で学ぶような知識や論理力なんて必要ないし、むしろ邪魔だったりします。
ですがこうした小規模な会社が大きくなっていくと、大卒の人を採用せざるを得なくなってきます。というのは経営するにあたってそれをまとめられるような人材が必要なのですね。それは大学を卒業して論理的な思考を身につけられた人によってなされること。それまでの試行錯誤で会社を運営していたら当たり前のように潰れちゃいます。
これがある程度大きな会社が大卒を採用していっている大きな理由となります(これだけではないのですが)。きちんとした訳があって大卒者を入れていっているわけですね。


で、ここからは私の今もっている仮説の話です。何故日本がこれだけ世界に誇れる技術を持っているのか、について。
これ、多分日本の企業は後進国なのです。それがたまたま棲み分けに繋がったので、日本は様々な技術を世に送り出しているのだと考えられます。(ただこれだけでは説明できない部分があって、日本人特有の性格とかも考慮しないといけないと思っています。ただしこの部分は皆無といっていいほど説得力のある研究が発表されていません。ほとんどの人が「日本人は真面目で勤勉だから」なんて説明でおしまいにしてますが、それはそもそもどこからきたものなのか歴史的に考証したものはありません。実際明治や大正時代の日本人は怠けていて、時間にも非常にルーズだと西欧諸国にバカにされていたくらいですから、ここから何らかの変化があったのは確実なのです)
海外の事情としてはアメリカがとても見やすいのでざっと説明しておきます。
アメリカではまず19世紀半ばにエジソンが出てきます。エジソンについては特集を以前組みましたね。彼は一人で様々な発明をしていったわけではありません。とても多くの部下を抱えていて、そして「エジソン発明会社」をつくります。まだこのときはエジソンは職人肌の親分として動いていますが、それまでと違うのは科学者なんかも中に抱えていったことです。
さらに19世紀後半になるとドイツでカイザー・ヴィルヘルム協会なんてのが設立されて、いかに科学というのが国力に貢献できるのかをアピールしようとし始めます。そして第一次世界大戦では実際にドイツは毒ガスを発明するのですね。ハーバー・ボッシュ法で有名なフリッツ・ハーバーによるものです。
また欧米ではこの頃社会的につくられた「男らしさ」の概念がどんどん変容していっている時期で、(中流階級の)男性は科学者や技術者となるべきだと説かれています。そしてアマチュア無線家なんてのが大量に出てきて、そして彼らはWWIで従軍するとその持っていた技術を見事に使ってみせます。飛行機に搭載されている無線機や、ラジオの根幹技術となるスーパーヘテロダイン方式なんてのはこの戦争中にできたものです。
ここからさらに1920年前後になってくると、今度は企業がこぞって科学者・技術者を募集し始めます。当時の広告を見てみるとそこに「男らしさのために」みたいな標語とかそれを髣髴とさせる言葉、絵などが入っています(この辺は逐次説明していると大変なので割愛)。これによって科学者や技術者は大企業の中に入っていくのが当たり前の社会が形成されていきます。有名なのはベル研究所のトランジスタ開発。デュポン社のナイロンの発明・商品化ですね(これらの発明者の名前、みなさんわかりますか? 有名でないのは企業の中に隠れちゃってるからなんですねえ)。
このような「男らしさ」の概念は日本にはおそらくなかったのだと思われます。明治維新以降、日本の後進性と西欧諸国からの軽視の目を払拭するため様々な科学者が「国のため」に活躍します。有名どころだと桜井錠二、池田菊苗、高峰譲吉、長岡半太郎といったところですね(これ全員、国の研究機関である理化学研究所に深く関わっている人たちです)。ですが彼らの多くは企業家として活動しようとは(少なくとも最初は)思っていません。池田菊苗は「味の素」の発明者ですが、彼はドイツに留学したことがこの応用化学への転身を決定づけたのだとされています。また高峰譲吉なんかもタカジアスターゼでウイスキーづくりなどに貢献してますが、その前にアドレナリンを世界で最初に結晶化させた人物でもあります。日本の科学界が本格的に自分たちの成果を企業へと結び付けようと乗り出したのは、理化学研究所の三代目所長である大河内正敏が理研コンツェルンというのを作り出してからといえるかと思います(実際にはもっとずっと複雑なので、ここをスタートと決めつけてしまうのは問題ですが)。
日本はこの後すぐに太平洋戦争・大東亜戦争に突入していきますから、実際に企業と科学者たちが連携しだすのは戦後しばらくしてからとなるでしょうね。終戦直後は立て直すのだけで精一杯だったでしょうから(ただし何らかの精神は残っていた可能性はあります)。
このように考えると日本の企業というのはアメリカより50~100年遅れてスタートしていることになります。また西欧のような「男らしさ」のようなものもない。だからまだ日本には町工場や職人がたくさん残っているのだと私は現在仮説を立てています。

ただし。遅れている=改善すべき、ではないと考えています。
日本の今持っている技術は確かに世界に誇れるものであり、これらを守り、発展させていかないといけないのではないかと私は考えています(特に後継者の少ない伝統工芸などですね)。
それにそもそも欧米諸国の「男らしさ」の概念によって後押しされた現在の企業の形式は社会的につくられたものなのですから、そこには問題点だってあると思われます(そして逆もまた然り。この概念がなければラジオもテレビも発明されなかったか、相当遅れただろうと推測されます)。
ですので日本の企業の形、その背景にある社会や文化の姿というのをじっくり考察するのは今後の日本の発展のために相当有益なことだと思われます。
まあ、残念ながらこれをやっている人はまったくいないですし、そもそもこれを研究するだけの能力を持った人がほとんどいないのですけれど(ちなみに必要な学問分野をざっと並べてみます。歴史学、法学、経済学、科学領域全般、法学史、経済学史、企業史、科学史、科学哲学、科学論、ジェンダー研究、class, raceの研究など。これらすべてを少なくとも修士課程修了レベル以上、可能であれば博士課程までとなります。ついでに言えば日本ではジェンダー研究が滅茶苦茶遅れています。class, raceの研究については世界のどこを探してもほとんどなされてないです)。これだけの能力を持った人の研究発表を待ってます。あるいは足りないところを早く誰か埋めてくださいw 私はこの先をやるつもりでいるんですから。



ふむ……まだ話が重たい気が?
なんか、そろそろ諦めかけてきた(苦笑)
Commented by zattoukoneko at 2010-05-06 09:20
今回はカテゴリを「社会・経済」にしてみましたー。
最初は「化学」っぽい話題でしたが、他の話も絡んできてましたので。どちらかというと「社会・経済」かな、と。

んー、カテゴリの選択が難しい……。
Commented by zattoukoneko at 2010-05-06 09:24
あ、記事内に書くの忘れてました。
日本は食品の加工技術でも世界のトップなのです。特に練り物とかですね。

実はこの「練り物」の加工機械開発には、「流動力学」の知識が必要でした。これを取り入れたのが日本。そしてその伝統を受け継いでいってるのも日本。
蕎麦とか八つ橋とか、機械で簡単につくってるように見えますけど――あれ、世界トップ水準の技術なのですよ?
これ、なかなかに面白いテーマですねえ(←すでに調査開始済みw
by zattoukoneko | 2010-05-06 09:17 | 社会・経済 | Comments(2)