【小説】交差日記(5/5)

 向かった先の総合病院は、さほど大きなところではなかった。もちろん個人でやっている医院よりは遥かに大きいのだけれど、設立が大分昔なのか、むしろ古いという印象の方が強かった。
 正面入り口から中に入ると、ロビーと売店を備えた休憩所が広がっていた。外来と思しき人たちが何人も座っているソファがあって、その向こうに総合受付があった。私はキリが脚に怪我をして、長いこと入院しているということしか知らない。他にも内科や外科の受付もあるようだけれど、キリがどこにいるかはわからなかった。総合受付でも、お見舞いに来た人などを案内するだろうし、対応してくれるだろう。そう考えて私がカウンターに向かうと、若い女性の看護師が要件を尋ねてきた。
「こちらにキリという名前の、十七歳の男の子がいると思うんです。脚に怪我をしていて、長いこと入院していると聞いています。病室を教えてもらえますでしょうか?」
 看護師は手元にあったキーボードを使い、慣れた手付きでパソコンに私の伝えた特徴を入力していく。それからしばらく画面を見つめ、首を捻りながらこちらに向き直った。
「検索したところ、そのような方は当院にはおいでにならないようです。もう少しお調べしようと思いますが、患者様の名字や、掛かっている担当医の名前などはご存知ないですか?」
 そこまで私はキリのことを知らなかった。彼は明るい性格だったし、自分の病気について話すことはほとんどなかった。だから担当医のことはおろか、病室や病院のこともきちんとは把握していなかった。
 もしかして入院先はこの病院ではなかったということなのだろうか。地元はこの町だとしても、設備の整ったもっと大きな病院に入院しているのかもしれない。
 そう少しの間思ったけれど、私は頭を振った。キリは確かに、病院で夏祭りのチラシを見つけたと交差日記に書き込んでいた。そして、またそれに参加したいと。この数日、何度も見直していたから、その文字ごと鮮明に思い出すことが出来る。
 ならこの町にある、他の病院ということなのかもしれない。私にはすぐに思い付かなかったけれど、数年の入院と手術を行なえる病院がどこかにあるかもしれない。あるいは一時的に退院しているのかもしれない。私はこの時期のキリのことについて何も知らない。そのいずれかでなかったら、十年とか数十年とか、そのくらいずっと先の未来にいるかだ。現在の時点でキリが入院していないのなら、私が彼をすぐに見つけることは不可能になる。でも他の病院にいるのだとしたら、できるだけ早くその居場所を特定しなければならない。件の手術が今すぐ行なわれるわけではないにしろ、何かが起きたのは確実なのだ。
「この町にある他の病院に問い合わせてもらえますか。キリはどこかにいるはずなんです。お願いします」
 私の懇願に、若い看護師は訝しげな表情をした。そして不審に思ったのかもしれない。事務的な言葉ではあったが、明確な拒否をしてきた。
「その方とはどういったご関係でしょうか? 申し訳ありませんが、患者のプライバシーに係わる場合、当院であっても他院であっても何もお教えすることはできません」
 どういった関係かなんて、そんなこと一言で片付けられるはずがない。私たちは交差日記を通じて、二人だけの会話をしてきた。ただの友人なんかじゃない。でもそれをどうやったら伝えることが出来るのか。
 気付いたら、私は受付カウンターのところで泣きそうになっていた。声が勝手に震える。私は持ってきたノートを取り出すと、受付の看護師に向かって哀願した。
「キリは、これと同じノートを持っているはずなんです。それ以上のことはわかりません。でも、とても大切な人なんです。だから、お願いします」
 涙声で訴える私に、けれど若い看護師は困った表情を返すのみだった。状況が芳しくないと判断したのか、受付の奥から年配の看護師がこちらに向かってきた。
「あたしが替わるわ。あなたは通常の業務を続けてちょうだい」
「あ、はい。では後は白石さんにお任せします」
「ええ。それと少し席を外すから。何か急用があったらコールをください」
 白石と呼ばれた看護師は、カウンターを少し回って、受付の中から出てきた。私の隣に並ぶと、声を落として伝えてきた。
「そのノートのことは知っているわ。持っていた相手は確かに十七歳の男の子で、でもキリという名前ではない。少し不可解な部分もあるけれど、とりあえずは事情を聞かせてもらうことにしましょう。ただあまり人の多いところで話せるようなことではないから」
 そう伝えると白石さんは、私を連れて休憩所に向かって歩き出した。売店の近くや窓辺の方には人が何人かいたけれど、案内された隅の方はひっそりとしていた。受付に患者の名前が呼ばれる声や、会話をしている人たちの声は届いている。でもそこだけ別の空間として切り抜かれたような、そんな感じがした。促されるがまま、丸い白テーブルの席につく。
「それで、あなたはそのキリ君とどういう関係なのかしら。話しづらいこともあるかもしれないけれど、あたしの知っている男の子もそれと同じノートを大事にしていて、毎日何かを熱心に書いていたのよ。何をしているのか教えてもらってはいないのだけどね。だからこそずっと印象に残っている男の子でもある。あなたがその子と関係があったのだとしたら、そのことについて話してもらいたいと思っている」
 白石さんの言っている相手は、キリで間違いないと思った。そう簡単には信じてもらえないことだろうとはわかっている。でも他にキリについての手掛かりがなかった。だから私はノートを通じて、空間も時間も越えたやり取りをしていたのだと正直に告白した。
 私とキリの交流を、白石さんは黙って聞いていた。そしてここにやってきた理由まで話し終えると、静かに頷いた。
「納得したわ。あなたの言ってることは突拍子もないことだけど、でもあたしの見ていたことと確かに合致する。そしてミサキさん、あなたは勘違いをしている。あなたが会話をしていたキリ君という人物は、未来にいる人間じゃあない。過去に生きていた人で、そしてもう何年も前に亡くなっている」
 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
 私はキリが未来にいるのだと思っていた。でもそれを白石さんは思い込みだと告げた。そしてその証拠として、私の覚えているキリは、ノートを手に入れてまだ間もないと述べていたのでしょうと指摘してきた。でも今は冬だ。どんなに時間の差が短かったとしても、彼が交差日記を書くようになる夏まで半年もの差がある。だからキリが未来にいるのだとしたら、この時点で白石さんがノートの存在を知っているはずがないのだ。
 茫然自失としている私に、白石さんは当時のことを教えてくれた。
「医療ミスだったの。壊死は内臓の方にまで及んでいて、取り除く部位はそんなに多くはなかったんだけど、お腹の方も開いたの。手術の目的自体は完璧にこなせたのだけど、執刀した医師が一本メスを体の中に置き忘れてしまった。こう言っては何だけど、そういうミスは結構あって、だから術後には使った器具の数を確かめたりして早期発見に努めている。キリ君のときもそれでわかって、すぐに再手術となった。でも何度取り出そうとしても、どういうわけか見つけられなかったのよ。そして立て続けの手術によって体力が奪われて、それで亡くなられてしまった。結局メスが見つかったのはご遺体を火葬してからのこと。背骨のすぐ近くに、ぴったり寄り添うようにして埋まっていたみたいね。もちろんレントゲンで大まかな場所はわかっていたけど、レントゲン写真を見るのと実際に体の中を見るのとでは大違いだから」
 それから白石さんは私の知らないことをいくつか教えてくれた。キリというのは本当の名前でないことや、意識が戻ったときには必ずノートを眺めていたことなど。そして最後まで生きようとするのを諦めてなかったと。
 私はまともに返事すら出来ていなかった。白石さんは当時のことを語り終えると、気分が落ち着くまでここに居てくれていいからと告げ、仕事へと戻っていった。
 独りで残された私の目の前、いつもとは違うテーブルの上にあのノートがある。私はその最後のページを開くと、静かに眺め続けた。最後に残された二行は、未だに埋まっていない。そこにキリは何を書こうとしていたのだろうか。体内に残されたメスの痛みに耐え、生きようと懸命にもがきながら。
 このノートの先で、キリはまだ生きているのかもしれない。今まさに、手術のときの麻酔が切れて、目を覚ましているのかもしれない。このページを開いているならば、私のメッセージが届くかもしれない。
 けれど白石さんから教えてもらった内容を書くには、そのスペースは余りに狭すぎた。それにそこを埋めてしまえば、仮にキリが助かっても、会う方法を伝える場所がなくなる。もちろん彼が生きていてくれるなら、一生会えなくなっても構わないと思っている。ただいずれにしても、私はキリと別れなくてはならないらしい。
 いつの間に溢れていたのだろう。涙が雫となって、見つめていた先の空白の行を濡らした。結局私は、今回も何もできなかった。キリも失ってしまった。どうしようもない喪失感と、自分から行動をしようとしなかったことへの慨嘆と、すべてを知った今でも何も出来ないという無力感と、そうしたすべての気持ちがごちゃごちゃに入り乱れていた。涙がまた零れ落ちそうになっていた。鼻水もしきりに啜り上げていた。きっと私の顔は酷い有様だろう。でもどうすることも出来なかった。
 手の甲で溢れてきた涙を拭う。そうして見たノートの上で、さっき出来たばかりの濡れた皺がそっと拭かれた。まだ乾き切っていなかったのか、涙が伸びてページの横にある裏表紙の裏にまで皺が広がった。
 それをやったのは私ではない。一人しかいないこの場では、誰もノートに触っていない。唯一触ることが出来るのはキリだけだ。ノートの向こうの世界で、たまたま意識が回復していたのだろう。落ちた涙に気付いて、そっと拭いてくれたのだと思う。その彼の優しさが、今ばかりは、私の胸をきつく締め上げた。
 けれど悲しんでばかりではいけないと思った。キリがどのくらいの間意識を取り戻してくれているかわからないけれど、伝えることが出来るのなら、今のうちに私の気持ちをノートに綴るべきだと思った。たった二行しか書けなくても、何もしないよりはずっといい。
 シャープペンシルを手にすると、私はノートに向かう。
 そこでふと気付いた。涙の染みは、ページをはみ出して裏表紙の方にまで及んでいる。でもそれをやったのはキリだ。どうしてそっちにまで、彼は手を出せたのだろう。
 私もキリも、思い込んでいたのだ。確かにノートとして、罫線のあるページはもう終わろうとしている。でもこのノート全体に相手と交わる能力が備わっているとしたら? 表紙も裏表紙も、そしてこの染みが広がった裏表紙の裏さえも、言葉を伝える場所になり得るのだ。
 そのことがわかると、私は急いで文章を書き込んでいった。罫線もないところに文字を書いていて、綺麗な並びにはなっていなかった。けれどそれ以上に、思い付くままに書き連ねていく言葉が、滅茶苦茶だった。
「今あなたの病院に来ています。すでに死んでいることを知りました。手術の際にメスを体の中に忘れてきてしまったらしいです。私があなたより未来の時間にいて、そのおかげで原因を知ることが出来ました。そのメスは手術を繰り返しても見つけられなかったそうです。場所は背骨のすぐそばです。ぴったり寄り添っていて、そのせいで見つけられなかったようです。お願いです。そのことを誰かに伝えてください。そして生きてください。私はあなたに言わなければいけない言葉があるんです。伝えたい気持ちがあるんです」
 上手く事情を伝えられたかどうか、自信はない。私は実際に施術した医師ではないのだし、専門的な知識も皆無だった。そしてそれ以上に文章が乱れていた。それでも必要なことは書けた気がする。だから後は自分の気持ちを伝え、再度の手術が成功することを祈るしかない。
 でも私はそこで言葉が出てこなくなってしまった。相変わらず心の中はぐちゃぐちゃで、大事な想いを整理して伝えることなんて、とてもではないけれど出来なかったのだ。
 だから私はたった一行だけ、ずっと抱えてきたその言葉を書き込んだ。
「私を助けてくれたことのお礼を言いたいんです。だから生き続けてください、ユウキ」
 キリという人物が、私を事故から救ってくれたユウキ本人だと、ここに来て初めて知った。考えてみれば、この町で最初に救急搬送されそうなのは、この総合病院以外に思い付かない。脚を失ったユウキは、傷口から毒のようなものが回って、入院が長引くことになったと同級生から聞いていた。卒業までに学校に戻ってこれなかったことまでは知っていたけれど、その後何年も入院を続けていたとは想像もしていなかった。それにキリはお見舞いに来る友達なんていないと言っていて、それは私の記憶にあるユウキの姿とは重ならなかった。
 ユウキが交差日記で本名を使わなかった理由はわからない。でもそんなことはどうでも良かった。彼はユウキとして私を交通事故から救い、その後キリとして塞ぎ込んでいる私を救ってくれた。誰かに会いたいという気持ちを抱かせてくれたのはキリで、そして手術後に返事がないことにうじうじとしていた私を部屋から出させてくれたのはユウキに対して抱き続けていた想いだった。
 私はそのすべてに感謝の言葉を伝えたい。そしてずっと自分から行動せず、お見舞いに訪れなかったことを謝りたい。
 ノートに本当に最後のメッセージを書き込んでから、どのくらいの時間が過ぎただろうか。気付いたらすぐ隣に誰かがやって来ていた。
「あの、ミサキさんですか?」
 問いかけに、私は頷いて答える。その人は待ち続けていた相手では、なかった。
「初めまして。ユウキの母です。息子からあなたには大変お世話になったと聞いています」
 柔和な表情をしたその女性は、隠し切れなくなった白髪のせいで随分と高齢に見えた。ユウキと私は同い年のはずだから、うちの母とそう年齢は変わらないだろうに。よほどの苦労でもしてきたのかと、私がさせてしまったのかと、そう思わざるを得なかった。
 ユウキのお母さんは、それでも優しい笑みを湛えながら、私に語りかけてきた。
「わたしにも事情がよくわかっていないのですが、あなたを捜すように息子から言われていました。会えて良かったです」
 その息子を事故に遭わせ、そして死なせてしまったのは私だ。この人はそのことを知らないのかもしれない。なら私の罪を告白して、謝っておくべきではないだろうか。それで浄罪が出来るなどとは思っていないけれど。
 頭を下げるべく立ち上がった私に、ユウキのお母さんは笑みに少し困惑の色を混ぜつつ、言ってきた。
「会えたときには、まずこれを見せて欲しいとのことです。中を開いてはいけないと厳重に注意されてもいます」
 そうしてお母さんから差し出されたのは、灰色の表紙に金色の唐草模様が刺繍された一冊のノートだった。私とキリが交差日記にしていた、あのノートと同じものだった。
「ミサキさんを見つけるときには、このノートを目印にしてくれって言われてたんです。病院に同じものを持ってやって来ているはずだからって。日時も場所もわからないのに、必死になって頼んでくるんですよ。本音を言うと、そんな人はいつまで経っても現れないんじゃないかって、ちょっと疑ってました。でも会えたのだから、息子の頼みごとを聞いておいて良かったのでしょうね」
 私はお母さんがこちらに向けてくるノートを、震える手で受け取った。そうして表紙をめくってみた。
 二人で一緒に綴った交差日記の数々の文字は、そこには一つも書かれていなかった。ほとんどのページは真っ白で、代わりに最初のページにこんな文章が記されていた。
《やっぱりこのノートでも、謝ることから始めないといけないのかもしれない。ボクのせいでミサキにつらい思いをさせてしまった。それも、またってことになるんだろうね。前のノートでボクは名前を偽った。ミサキが先に書き込んでいた内容を見て、薄々ボク自身のことだと気付いていたんだ。だから余計なことは思って欲しくなくて、ただ君と会話をしたかったから名前を替えることにした。悪気はなかったんだけど、でも結局は嫌な思いをさせたことに変わりはないんだよね。だから、ゴメン》
 謝る必要はないのに。私もキリがユウキ本人だと気付いていたら、ちゃんと会話をすることが出来なくなっていたと思う。それにノートによって隔てられていて、確かに私とは違う別の人だとわかってはいたけれど、直接顔を突き合わせていなかったからこそ、私たちは交わることが出来たのだと思う。その距離が私たちには必要だったのだ。
 彼の言葉はその後も続いていた。それを読み終えると、すぐそばで待ってくれているお母さんに少し時間をくれるように頼んだ。それから再度椅子に座ると、ノートにいつもしていたように書き込んでいく。
《何も謝ることはないです。そうするのが自然だと思うし、それどころかおかげで私もキリから色々なものを貰えました。その後に書いてある提案にも賛成します。ただその前にやっておかないといけないことが私にはあります。一つはユウキに謝るということ。事故に巻き込んでしまってごめんなさい。そしてその後もお見舞いに行かなくて、本当に申し訳なかったと思っている。もしかしたらあなたは、そんなことは気にしなくていいとか、過ぎたことだからと私を赦そうとしてくれるかもしれません。でもキリとして私の想いを読んだなら、このこともわかってくれると思います。私の心はあの事故によって囚われていた。その後キリが前に進めるようにしてくれたけど、でも気になることに変わりはありません。だからけじめとして謝らせてください。ごめんなさい、そして助けてくれてありがとう》
 そこまで書くと、私はノートを閉じ、立ち上がった。何も言わずに待ってくれていたお母さんに問いかける。
「これをユウキさんに届けたいんです。すぐに会うことは出来ますか?」
 お母さんは本当に嬉しそうな笑みを浮かべて、首を縦に振った。
「車椅子だから病院の中を一緒に歩き回るのは大変で。だからロビーの方で待たせてあるんです」
 私の書き込みは、ちゃんとキリに届いていたらしい。その後に受けた手術でメスは無事に見つかり、摘出された。ただ背骨の間近にあったメスは、そこに入り込むときに脊髄を損傷してしまった。そのため下半身不随になってしまったのだそうだ。
 ロビーに行くと、車椅子に座って待っている男の人がいた。ユウキの顔は知っているはずだけれど、当時の私はきちんと人と交わっていなかったから、本人かどうかわからなかった。ただお母さんと並んでやって来た私を見つけると、彼はすぐに嬉しそうな表情をして、そして恥ずかしそうにして、それから困ったように頭を掻いた。その感情を率直に出す様が、ノートに書かれていくキリの文字とそっくりで、私は小さく吹き出してしまった。
 ユウキの前に辿りついた私は、ノートをそっと差し出した。受け取った彼はそこに付け加えられている私の返事を読み、そしてシャープペンシルを取り出して文字を書き始めた。
 筆談になっているのにも理由がある。最初の事故のとき、ユウキは脚だけでなく声も失っていたのだ。入院してからしばらくの間はクラスメイトがお見舞いに来ていたようだけど、高校入試を経て進学をした彼ら彼女らは、会話が出来ない彼を置き去りにしてしまったらしい。だからキリとして私との会話を望んだ彼は、孤独な入院生活を送ることになっていたのだ。
 しばらくしてユウキが文章を書き終えた。受け取ったノートに目を落とす。
《ボクのことを許してくれてありがとう。それとミサキの謝罪もきちんと受け取ったよ。そして、このノートを新しい交差日記にしたいという申し出を受けてくれたことが、堪らなく嬉しい》
 このノートには空間や時間を越える能力はないらしい。ただ以前使っていたものと見た目が同じだけの、普通のノートでしかなかった。でもユウキは見た目が同じそのノートを用意してきて、新しい交差の場として使うことを提案してきたのだ。
 幸いこちらの声は聞こえるとのことだけど、彼は声を発することが出来ないし、ならば会話には手話や筆談が必要になる。その手段であり場所となるノートに、彼は交差日記と名前を付けた。前のノートとは違う。でも確かに交わることが出来るのだと感じられて、私はそれをとても気に入った。
 ユウキの書き込みにはもう少し続きがあった。目を通しながら、それは気になって当然のことだと、私自身も思う。
《ミサキは新しい交差日記を始める前にやっておくべきことがあるとして、事故に遭ったボクへの謝罪を書いている。でもそこに、一つは、とあった。他にも何かあるということ? ノートには書いてないようだけど》
 そう、彼の言葉の通り、私にはもう一つやらなければならないことがある。でも敢えてノートには書かなかった。その言葉を伝えるために、私はもうノートという媒介に頼っていてはいけないと感じていた。私はキリと直接会ってみたいと思ったときの気持ちを、まだ伝えていない。自分だけの想いなのだから、誰にも、何にも頼らず、自分の声で伝えよう。
「初めて人を好きになりました。よかったら私と交際をしてくれませんか?」
         締

by zattoukoneko | 2013-11-22 19:30 | 小説 | Comments(0)


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ありがたいことです。



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