『世界を凍らす死と共に』4-3-1


   三.


 柊を家まで送り届けて自宅に戻ると、母さんと真琴が待っていた。柊も元着ていた服に戻っていたのと同様に、真琴もセーラー服に身を包んでいる。母さんとの会話はなかったようで、目の前に出されたコーヒーはすでに冷めてしまっていた。
「時間かかってて悪いな。もう夜になってるし、真琴が構わないようなら明日改めて会うというのでもいいんだけど」
「いや、大丈夫。立花さんの病院に付き添ってたんだし、目が覚めるのは遅くなるだろうというのはわかってたしさ。むしろこのまま帰される方が気持ちの収まりが付いてなくて落ち着かないよ」
 それもそうかもしれない。立花先輩や柊の件も早めに片付けなければならないことだろうと考えて今日中に回ったのだし、真琴もそうして欲しいと考えるのは自然なことかと思う。
「ならもう少し待っていてくれるか? 俺自身がまだ死んだ父さんと母さんにきちんと向き合ってない。真琴にも関係のあることだし、それを先に済ませてしまいたい」
「わかった。家にはもう連絡してあるし、まだ大丈夫だよ」
 それを聞いて今度は母さんに向き直る。
「じゃあ行こうか。母さんも父さんたちのことは気になっているだろうし」
「え、私も行くの? 鏡夜くんがそう言うなら付いていくけど、でもそうすると真琴ちゃんに留守番させることになっちゃうし……」
「立花先輩や柊とも話してきたけど、やっぱり一人でやっていては駄目なんだと再認識させられた。どうしても思い込みや逃げが出てしまうし、それを指摘してくれる人が傍にいないと。それに想いは絡み合ってるんだから、全員が集まることは無理でも深く関与している人とは一緒にその場に足を運ぶようにしたい」
 俺の言葉に母さんはとりあえずの納得をしてくれたようだった。多少ラフな格好はしていたものの、そのまま外に出ても不自然ではない。カーディガンだけ羽織ると真琴に告げる。
「それじゃあお留守番しててもらっていいかな? 電話とかも特に出なくていいし」
「留守番が必要ないなら僕も一緒に出るよ。鏡にいもそこには行こうと考えてるんだろうし、先に待ってることにする」
 具体的な場所は口にしなかったが、その頭に思い描かれている場所はわかった。それならと真琴を送り出す。
 それから俺は母さんを連れて出掛けた。行き先は昨夜も一緒に訪れた公園。父さんが死んでから、ここはずっと氷に包まれたままだ。
「母さんに怪から助けてもらった後、ここを凍らせたのは父さんじゃなかったってことは話したはずだよね。そして本当の原因は真琴が溜め込んでいた死んだ前の母さんの冷たさが溢れたからだとした。でも改めて考えてみて、それは一因かもしれないけど、それだけじゃここで起きている現象は説明し切れないじゃないかと疑問を抱いたんだ」
 父さんが柊に襲われたとき、真琴はこの場にいなかった。怪がその想いを溢れさせたことで凍らせたというのは当たっていると思う。けれどそれだけにすべてを帰結するのは間違いという気もする。怪の想いは事件のすぐ後にここから消えたはずだし、それなら氷は夏の暑さで融けてしまうはずだ。ここがずっと氷に閉ざされたままになっている理由は他にある。
「お父さんのことや、お父さんの事件を冷たいものにしておきたい人がいるってことかな?」
「そうなのかもしれないと、推測しているところかな。父さんが死んで凍ったのは怪の力ということで間違いないと思う。これだけの空間を氷漬けにするような想いは相当なものだろうし。ただそのままの状態にしておきたいと考えている人間の想いがこの状態を維持させた」
 その人間の一人は俺だ。父さんの事件のことを顧みようとせず、むしろそこで交差した想いが溢れてくるのを嫌った。犯人のことを知れば相手を憎んでしまうだろうし、呆気なく殺された父さんに憤りを感じてしまうかもしれない。色々な気持ちが溢れ、それが渦巻いてしまうのが怖かったから、ここからどのような想いも出てこないようにと氷に封じ込まれているようにと願った。
 結局前の母さんのときと同じだったわけだ。あのときも俺は自分の心が乱されるのを嫌って思い起こさないようにした。世界をきちんと見るのをやめたから、それに呼応して色が目に映らなくなった。
「母さんのおかげで俺は色を取り戻したし、今回だけではなくこれから何度も父さんや前の母さんのことを思い返すことになると思う。今は大丈夫だけど、今後落ち着かない気分になることもあるかもしれない。そうしたときに同じ経験をしている人と意見を交わすことができたらいいなと感じるし、逆にその人が悩んでいるときには力になれればとも思ってる」
 その相手は同じく残された母さんということになるんだろう。その考えはきちんと伝わったらしい。母さんも自身の想いを語ってくれる。
「私もね、お父さんの事件のことはあまり思い出したくないんだ。見つめ直すことを決めたって、鏡夜くんに宣言したばかりなのにね。……もしかしたら私もこの公園には凍っておいてもらいたかったのかもしれない。鏡夜くんと違って想いを閉じ込めるっていうのじゃないけど、ここでお父さんが死んだという事実を忘れたくないという気持ちが強くあった。その割にはここを避けてたんだよね。思い出しに来れば済む話なのに、まるでお墓か何かのようにして、普段行かなくてもそこにあるものにしたかったのかもね」
 母さんはそれから小さく首を傾げて問いかけてきた。
「鏡夜くんの考えているのは、想いって自然と交差するものだし、なのに人それぞれでバラバラになりがちだからきちんと交換しようってことだよね? それって確かに大事なことだと思う。特に私たち家族なんだし」
 そこで母さんはふと何かを考え始めた。手を軽く口を添えると「そっか」と呟いた。
「私も一人だけで考えようとしちゃってた。それじゃあダメだったんだね、元々知らないことなんだし」
 母さんが何を思い起こしているのかは想像が付いた。俺もこれからそこに行こうとしていたから次の申し出を快諾した。
「前のお母さんのことを知りたい。お父さんはもういないからその気持ちを直接知ることは出来ないけど、鏡夜くんの想いならまだ聞けるから。つらくないなら話をしてもらいたい」
 俺は母さんを事故のあった場所に導いた。町の外れだから明かりは少ないけれど、周囲の様子がわかるくらいではあった。
 道路の端まで行くと俺は伝えた。
「ここが前の母さんが子供を助けようとして飛び込んだ場所。その後流されたから体が見つかったのは別の場所だけど。……今じゃ道路で舗装されて用水路どころかその上に被せられた蓋も見えなくなってるのか。俺も随分長いことここに来るのを避けてたみたいだ」
 案内された母さんは合掌して短い間目を瞑った。
「お墓参りとは違うけど、鏡夜くんの新しいお母さんになりましたって報告をしてみた。ここにお母さん自身や鏡夜くん、お父さんの想いが残ったままになってるなら、後は私が引き受けますって決意を込めて」
「そうしてくれるとありがたいよ。俺もようやく振り返るようになって、未練みたいなものが出てきたし。あの日一緒に出掛けていれば助けられたんじゃないかとか。でも俺だけがそういうことを考えてたわけじゃないんだろうな。父さんもそうだったのかもしれないし、そしてきっと俺たち以上に似たような想いを抱いている奴がいる。だから出来るようだったら母さんもそいつの想いを背負うのを手伝って欲しい」
 そう伝えると俺はすぐ近くでうずくまっていた人物に向き直る。
「待たせたな真琴。みんなで気持ちの整理を始めよう」


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by zattoukoneko | 2013-05-07 05:46 | 小説 | Comments(0)


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