『世界を凍らす死と共に』4-1-2


 柊の言葉に真琴が少したじろぐような様子を見せた。怪に意識が乗っ取られていたとはいえ、彼女は何人もの人をその手で殺してきたのだ。殺気は本物だし、それに怖気付かない方がおかしい。
 けれどすぐに真琴は威勢を取り戻した。
「どうやって殺すのさ。仮にナイフを持っていたとしても僕には怪の力がある。人の力じゃ太刀打ちできないと思うけど」
「方法なんてどうでもいいわ。わたしが口にしているのは決意だもの。どんなことをしてでもそれを成し遂げてみせるという固い想い」
 それから柊にしては珍しく、それとわかる嘲笑を浮かべた。
「許斐さんは怪をつくったくせに想いの怖さを理解していないのね。力なんてなくても気持ちが確かなら人は選んだ道に向かって突っ走るものなのよ。それとも本当は理解しているのだけれど、自分の心に嘘を吐いているから怪に逃げてしまっているのかしら?」
「……」
 確かに真琴がどうして他人にまで怪の力を渡そうとしたのか、そこに思考の飛躍を感じる。
「要はそこが単純ではないところなのよ。許斐さん自身もきちんと整理が出来ていないのかもしれないわね。まあ人間というものは得てしてそういうものだけれど」
「不条理をなくして世界を改変したいというのが真琴の本当の想いじゃないって、柊は言いたいのか?」
「別にそこまで否定しようとなんて思ってないわ。不条理だと感じること、境遇に対する不満は多々あるし、それに直面したとき自分の無力さを感じることも多い。許斐さんの場合は御薗木くんの亡くなられたお母さんの件があるし、余計にそれを意識したのではないかと推測出来るわね。だから怪の力を世界の改変に使おうというのも一応はわかる」
 柊はそう言葉の上では納得できるものであるとしつつも、その端々からは違うところに本当の意図があるのだろうと考えていることが窺い知れた。
「ただ、どうやら世界のすべてを変えることまでは無謀だとも、許斐さんは感じているみたいね。怪を渡した際にその想いに呼応し、かつ耐えられる人なんてそうそういない。わたしや立花先輩は怪を引き受けることまでは出来たけれど、その力を気随気儘に利用したし、許斐さんが長年かけて溜めていった想いとも別の想いを抱いていた。相互に作用した結果、わたしたちはまったく別の行動を取った。それは当り前のことでもあるわね。人それぞれ別々の想いを抱いているのだもの、いくら怪の想いが凄絶なものだろうとそれを受け取った瞬間に変化が起こる。そのことは許斐さんも今回の件を通じて知ったような気がするのだけど、どうなのかしら?」
 真琴は目を逸らして沈黙した。受け入れたくはないのかもしれないが、すでに柊の言った通りだと思っていたのかもしれない。
 小さく言葉を吐き出した真琴は、苦しそうだった。
「だったら……どうしろっていうのさ」
「決着をつけなさい。そして怪と決別して消してしまいなさい。自分でそれが出来ないなら、わたしがそれをやってあげるわ。熱い血潮で冷たい想いを溶かしてあげる」
 それが決意というものなのだろう。鋭利な刃物のように鋭くて硬かった。
 けれど氷のような冷たさがそこにはないということに俺は気付いた。いつもならもっと冷めていて、場合によっては冷酷とも受け取れる言葉を突き付けるだろうに。
 俺は柊を止めた。おそらくだけれど、そうされることを彼女も望んでいる気がした。
「柊の決意は聞いた。でも俺は真琴を誰かに殺されたくないし、柊にも誰かを殺してもらいたくない。すでにその手が人の血で染まったことがあったとしてもだ。それに気になることが一つある。まだ俺は真琴の決意を聞いていないんだ」
 俺の制止に、柊はあっけなく目に見えない刃物を引いた。
「それもそうね。世界を変えてやろうなんていうのはインパクトがあるだけで、所詮子供騙しでしかないわ。それは想いの一つとしては認めるけれど、許斐さんが他にもいくつかの想いを口にしていたというのも気になる。今は無理だと諦めたようだけれど、それは亡くなられた御薗木くんの前のお母さんを助けようという気持ちに、本当に整理が付いたということを意味するのかしら。それは青葉さんを今の御薗木くんのお母さんとして認められていないという現状にも繋がっている気がするのよ。他にも御薗木くんの力になりたいとか、わたしや立花先輩のような辛い境遇にいる人を助けたいとか、結局想いはどこに向いているのかしら?」
 柊の言葉に重なるように遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。それに合わせて喧騒も響いてくる。
「御薗木くんにも止められたことだし、ここは一度引くことにしましょう。獲物も持っていないし、大勢の人の前で殺すのも難しいでしょうしね。ただ許斐さんが今後も怪を辺りにばら撒いていこうと本気で考えているのなら、わたしは伝えた決意の通りにやらせてもらう」
 結局真琴もこの怪の一件を通じて変わらなければならないということか。俺も母さんの力を借りて変わることが出来たけれど、まだその整理が終わったわけじゃない。
 ふと隼人の忠告を思い出した。俺たちは高校の教科書のようにそれぞれやろうとしていることが違っている。科目が小中のものより専門的になったのだからそれは自然なことでもあるのだけど、あいつはそれぞれの繋がりが無視されていると嘆いた。その言葉は一つの示唆になったと思う。俺も柊も立花先輩もバラバラだった。でも想いは交差していたはずで、それに気付いたからこそ俺は立花先輩を助けるときに柊を巻き込んだ。そして改めてその言葉を思い返したとき、俺は隼人に一言伝えるべきだと思った。
 救急車が公園のすぐ近くまで来たようだ。俺は真琴に向き直り、自分の考えを伝える。
「怪にまつわる事件、そこには前の母さんの一件も含まれるけど、それに関わった人たちの想いを俺は一度整理したい。当然真琴もそこには入ってる。俺の横に並んで力になりたいって言ってたけど、そのことにも何らかの答えを出すつもりでいる。だけどほんの少しだけ時間が欲しい。立花先輩には、目が覚めたときにすぐ伝えないといけないことがあるから、どうしてもその後になる。それまで待っていてくれるか?」
 俺の問いかけに、真琴はそれまでと少し違う言葉を発した。
「鏡にいが僕のことを助けてくれるの?」
 それが真琴の本音なんだろうなと感じた。真琴は俺や誰かの力になりたいとばかり口にしていたけれど、自身の苦しみはほとんど語っていない。本当は誰かに救いの手を差し伸べてもらいたかったんじゃないだろうか。
 今の俺と真琴は距離が離れているせいで、その頭を撫でてやることは出来なかった。
「約束する。まだその方法は見つけていないけど、でも必ず真琴の所に向かうから」
「……わかった。待ってる」
 了承してくれたことを確認すると、俺は母さんに真琴と柊を一度家に連れ帰って欲しいとお願いをする。特に柊はウエディングドレスのままじゃ出歩きにくいだろうし。立花先輩の病院へ付き添ってから、みんなには改めて連絡しよう。
「行ってらっしゃい、鏡夜くん。帰ってくるの待ってるから」
 母さんのその言葉に背中を押されて、俺はようやく到着した救急車に立花先輩と一緒に乗り込んだ。


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by zattoukoneko | 2013-05-01 06:17 | 小説 | Comments(0)


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