【期間限定公開】『雪の音に沈む街』オマケエピソードPart. 4

 雪音は不思議に思っていました。
 頭にあるのは、この前食べた雪見だいふくのことです。
「美味しかった……」
 融けると同時に口に広がる甘さを思い出し、思わずよだれがこぼれます。我に返った雪音は、慌てて袖で拭います。
 別にまた食べたいとか、そういうことを考えているわけではありません。
 ……もちろんあったら食べますが。
 ただ気になることがあったのです。どうしてあのような食べ物があるのでしょう?
 料理というものはお母さんがしていたから知っています。調理をすることで食材を柔らかくしたり、味を整えたりするのです。
 中には甘いものもありました。カエデの樹液などはとても甘いですし、豊富に採れます。ですからお菓子のようなものも作れるのだということはわかります。けれど雪音にはあの甘さが何なのかさっぱりわからなかったのです。
 山にはない味が人の街にはたくさんあるのかもしれません。それらを使って多くの料理が作られているのかもしれません。
 雪音は、決意しました。
 山を下りてみます。そして実際に人が売っている料理を見てみようと思います。
 母は心配するかもしれませんが、自分ももう大きくなりました。それに買い物に行っている様子からすると、そこまで危険はないようにも感じます。
 結局雪音は黙って山を下りることにしました。何となくですが、伝えたらお母さんは止めるような気がしたのです。結局自分にも雪女の血が流れていますし、人間として育ててはいても、その差がばれるのが怖かったのではないでしょうか。
 雪音たちが住んでいるのは山のかなり奥の方です。ですから人の街まで行くのにはかなりの時間を必要としました。疲れて喉もすっかり乾いた頃、ようやく林を抜けて灰色の固い道に出ました。
 その道は真っ平らで、石のようにも見えましたが、それにしては長く伸びすぎています。明らかに山にあるものとは異なっていました。
 周囲を見回すと、一軒の家がありました。人間の家を間近で見るのは初めてでしたが、山の上から眺めたことはあります。
 その家には道に大きな箱を出していました。興味が湧いた雪音は、近くに人がいないことを確認してから、ふらふらと近寄ります。そうして箱の中を覗いて驚きの声を上げました。
「雪見だいふく!」
 箱の中にはこの前見たばかりのアイスがありました。他にも見たことのない色とりどりのものが詰め込まれています。箱の上には透明な蓋がしてあって、触るとひんやりとしました。でもそれは氷ではない何かでした。
 雪音にはその箱の開け方がわかりません。それに開けられたとしても勝手に持っていっては駄目なのだと思います。お母さんはいつもお金というものを持って買い物に出かけていましたから。
「むー。むー」
 箱の上に体を乗り出し、雪音はうなります。そんな彼女は目の前にある物に夢中で、だから周囲に注意を払うのを忘れていました。
「あら?」
 すぐ近くで声がしました。驚いてそちらを見ると一人のおばあさんがいて、家の戸口から体を半分出したところでした。どうやらそこで雪音の存在に気付いたようです。
 雪音は慌てて逃げようとしました。どう接したらいいのかわからなかったのです。
 けれどそれより前におばあさんが声をかけてきました。
「初めて見る顔ね。でもその服と髪飾りはよく知ってるわ」
 その言葉に雪音の足が止まります。
「お母さんを知ってるの?」
「ええ、知ってるわ。よくここにお菓子を買いにくるもの。娘にあげるのだと言っていたけれど、あなたがそうだったのね。よく似ているわ」
 大好きな母に似ているという言葉に、雪音は嬉しくなりました。おばあさんも笑顔でした。
 それからおばあさんは、自分はここで長いこと駄菓子屋を営んでいること、駄菓子屋はお菓子や簡単なおもちゃを売っているお店だと教えてくれました。
 雪音も自分のことを教えます。名前くらいしか言うことはありませんでしたが、おばあさんは優しい笑みに目を細め、きちんと聞いてくれました。
「雪音ちゃんはアイスが欲しかったの?」
 その質問は、雪音が箱の上に身を乗り出していたから出たものだったのでしょう。実際、雪音は欲しいものがありました。
「雪見だいふくが欲しいの!」
「そう。なら出会った記念に一つプレゼントしましょう」
 おばあさんはアイスの詰まった箱に近寄ると、がらりと上の蓋を移動させ、雪見だいふくを取り出しました。それを雪音に手渡しながら伝えます。
「今度はお母さんといらっしゃい。無理にとは言わないけれどね」
 雪見だいふくをもらった雪音は、さっそくそれを食べ始めます。食感と甘さに感動し、結局人の作る料理のことは忘れてしまいました。嬉しそうにアイスを頬張る少女を、おばあさんは愛おしげに、感慨深げに見つめ続けました。
 それだけのお話。他には何もなく、アイスを食べ終えた雪音はおばあさんに別れを告げて山に戻って行きました。その後雪音はお母さんと一緒にここに来ることはありませんでしたし、またおばあさんも多くを語りませんでした。
 ただ、山奥で静かに暮らす母娘を、密かに大事に思ってくれていた一人のおばあさんがいたのだという、それだけのお話です。

   *おしまい*
by zattoukoneko | 2012-09-13 23:42 | 小説 | Comments(0)


本・映像・ゲームの紹介がメイン。でも他のことも扱ってます。


by zattoukoneko

プロフィールを見る
画像一覧

プロフィールやリンク

プロフィール       
筆名:雑踏子猫          
小説家・研究者として修業中。   
ブログの主旨:             
①自分の考えをまとめること。   
②見てもらう人にも考えてほしい。
やたらと6と13という数字に付きまとわれている人間(でも6は完全数とよばれる元々は神聖な数字ですねー)


【閲覧者数】(試用運転中)
カウンター


***

応援サイト様
(というかお気に入りサイト)
へのリンク

チュアブルソフト様
(アダルトゲームメーカー、注意)    
チュアブルソフト公式WEB





SQUARE ENIX様





電撃様


電撃文庫のHPの方で
私の作品を載せてもらってます。
ありがたいことです。



第1回電撃メジャーリーグで争った
山本 辰則 様
のブログ。
山本辰則の小説とか



素敵な小説を書かれている
雪見月瑞花 様
のHP、HarvestSnow
HarvestSnow
ただこちらは
“ひっそりと”
運営していきたいそうです。



こちらはお世話になっている
美容室gally@下北沢 様
です。
お薦めなのでリンクを貼りました。


 ***

ブログパーツ ハピネム

カテゴリ

全体

ゲーム
映像
生物・医療
化学
物理
歴史
社会・経済
受験関係
雑記
告知
作品品評
小説
エッセイ
未分類

最新のコメント

明日香さん、貴重なご意見..
by zattoukoneko at 21:35
本当に いつまで働かない..
by 明日香 at 19:39
せっかくついでに、もう少..
by zattoukoneko at 12:53
島根大学よりご連絡があり..
by zattoukoneko at 19:17
さて、もりながさん、最後..
by zattoukoneko at 02:17

記事ランキング

以前の記事

2017年 06月
2016年 12月
2016年 07月
2015年 09月
2015年 05月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 07月
2014年 01月
2013年 11月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 01月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 06月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 10月
2008年 08月
2008年 04月
2008年 02月
2007年 11月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月

ファン

ブログジャンル

画像一覧


こっそり『アステリズム』の【遊べるバナー】を設置。
※対応ブラウザはChrome18以上、Firefox6以上、IE9以上です。
※混雑時や、未対応のブラウザからアクセスがあった際には、通常の画像バナーとしてふるまいます。
※回線速度が十分でないと正常にプレイできない場合があります。
※音楽が流れます。
※『アステリズム』については右上のバナー欄や紹介記事を参照。