【期間限定公開】『雪の音に沈む街』オマケエピソードPart. 3

 今日の雪音はお留守番です。お母さんは山を下りて買い物に出掛けていました。
 山の中、二人だけではどうしても生活ができません。雪音は人として栄養の豊富な食べ物を必要としますし、また着る服も織れませんでした。
 お母さんは雪女です。けれどその冷たい力さえ使わなければ、普通の人間と見た目は変わりませんでしたし、実を言えば昔は人間だったのです。雪女に変えられて、今は人里を離れて暮らしているだけなのです。
 山を下りて人のいるところに行っても、人混みの中などに入らなければ、雪女とばれることはありません。またお父さんが人の街に出ていく前に、お金を預けていました。ですから少しくらいなら買い物ができました。
 夕方になってお母さんが帰ってきました。出迎えた雪音にお土産をくれます。
 それは白い大福でした。
 贅沢はできませんが、買い物に出掛けるとお母さんは娘のためにおやつを買ってきてくれました。特に大福が雪音のお気に入りらしく、よくお土産に選びます。
 雪音は触るとふわふわしていて、それでいて伸びる餅の皮が好きでした。さっそくもらった大福を口にして、皮を伸ばして楽しみます。そうしながら、せっかく周りが白いのだから、中も白くしてくれればいいのにと思っていました。
 もしくは赤い実をつけるのもいいかもしれません。そうすれば自分やお母さんとお揃いになります。ただ雪で作ったウサギと見た目がそっくりになってしまうかもしれませんが。
「外じゃなくて中に入っているのだけど、苺大福というのもあるわよ。雪音の気に入るかはわからないけど、今度買ってきましょうか」
 お母さんの提案に雪音は元気に頷きます。口はもぐもぐしていたので開けませんでした。
 そのときふと気付きました。
 とても弱くではありますが、お母さんが雪女の力を使っていたのです。そんなこと滅多にしないというのにです。
 雪音が訝しげな視線を送っているのに気付いたのか、お母さんが慌てて言います。
「何でもないわよ。ずっと外にいたから体が熱くなってしまって、それでちょっと冷やしてたの。ごめんなさい。雪音もいるのに、注意が足りなかったわ」
 そうしてお母さんはお父さんの財布や写真を入れてある箱を閉じました。
 その夜のこと。
 雪音は物音で目が覚めました。頭の向きを変えると隣で寝ているはずの母の姿がありません。
「……お母さん?」
 寝惚けながら呼びかけると、すぐ近くから声がしました。
「ゆふぃね!?」
 振り返ったお母さんは何かを食べていました。白くて丸いものに雪音は心当たりがありました。
「お母さんも大福食べてたんだね」
 笑顔でそう言ってから、すぐにおかしいと気付きました。雪女である母は食べ物を必要としないはずです。澄んだ空気と雪を透した陽の光で生きています。元は人間ですから物を食べられないということはありません。けれど食事によって体に熱が発してしまうので避けていました。
「あのね、これはね?」
 慌てる母の顔が赤くなっています。それに気付いた雪音は、眠気も吹き飛び、慌てました。
 食べ物の熱によって体に変調をきたしているのでしょうか。それとも元から具合が悪かったから何か食べることで良くしようと考えたのでしょうか。
 いずれにせよただ事ではありません。
 走り寄った母の元、ひんやりとした冷気が漂います。でもそれは雪女の冷たさではありませんでした。手に持っている大福から発せられていました。
「あのね、これはアイスという冷たいお菓子でね、雪見だいふくって名前なんだけどね」
 どうやらお母さんは隠し食いをしていることがばれて、それで恥ずかしくなっているようでした。
 冷たい食べ物だからお母さんも食べられるということなのでしょう。でもどうして隠す必要があるのか、雪音にはわかりませんでした。
 落ち着きを取り戻したお母さんが告白します。
「これは冷たい食べ物だから。雪音に与えることで体に冷たさが移ってしまうのが怖いの」
「うーん、でもそれは人間が食べてるものなんだよね? だったら雪女になったりはしないんじゃないかな」
「……それもそうね」
 お母さんは指摘されて、自分が過度な心配をしていたことに気付きました。少なくとも自分は雪見だいふくを食べることで雪女に一層近付くということはありません。むしろ温かな気持ちになるくらいでした。
「雪音も食べてみる?」
 お母さんはまだ残っていた雪見だいふくを娘に手渡します。一緒に愉しみや思い出を共有するのもいいことだと感じたのです。
 雪音は冷たいもので、固まっていない食べ物を知りませんでした。でももらったアイスというお菓子は、触った感触が柔らかくて、何だかどきどきします。
「これはお父さんが教えてくれたものなの。アイスなら雪女でも食べられるんじゃないかって――」
「ふぉおおお!」
 お母さんの昔話は、雪音の驚きの声で中断されました。口に広がる甘くて冷たい感触と、引っ張って伸びる皮に目をぱちくりさせていました。
 その様子がかわいくて、お母さんは笑ってしまいます。
 深い夜の山の中。二人の母娘が冷たい幸せを共有していました。

   *おしまい*
by zattoukoneko | 2012-09-12 23:51 | 小説 | Comments(0)


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