【小説連載】【短編小説】『紅ひらり』第六話


 私は楓様に反論しました。神木になられるということが何を意味しているのかわかっているのでしょうか。もはや会うことができなくなると、そういうことではありませんか。
 怒りと悲しみに綯い交ぜになったぐちゃぐちゃの私に、楓様は毅然とした態度で答えを返されます。
「本来わたしたちは交じり合うことも出会うこともなかった者同士だ。邂逅しなければよかったなどとは言いはしない。けれど違う道を歩んであるはずであり、出会ったとしてもいずれはそうしなければならなかった。ただ今回は神木になるという選択肢が提示されたというそれだけのことだ」
 それで納得のできることなのでしょうか。私には理解できませんでした。
 つい先日御神木様のところを訪れたばかりです。あのように喋ることのできないものに楓様はなりたいということなのでしょうか。
「それは人としての舞の想いでしかない。木と人は違う。元から声を発することのできないわたしたち木々にとって、話すことができないというのがそんなに苦痛であり得ようか?」
「よく……わかりません」
 仮に楓様の主張を認めたとして、神木になる理由が見つかりません。
 けれどそれこそ簡単なことだと楓様は笑われました。
「切り倒されてしまうより遥かに良いではないか。神に近しい存在になるのだから、これまでとは立ち居振る舞いは当然変えなければならない。けれど木であることには変わりない。何もまったく別の存在になれというわけではないのだ。無理なことでも無茶なことでもない」
 そしてどこか遠くを見つめるようにしてその言葉を発せられました。
「神木になることで村の厄災が収まるのなら、それによって舞を今の境遇から救い出すことができるのなら、わたしは喜んでこの身を捧げよう」
 その言葉はあまりに卑怯すぎます。そう言われたら私からは何も申し上げることができなくなってしまうではないですか。
 黙りこくってしまった私に、楓様が仰られます。
「私は変わる。けれどそれだけでは駄目だ。舞もこれを機に変わらなければならない」
 そう忠告してから私に訊いてきます。
「舞はここを逃げ場としてきたのではないか?」
「そのようなつもりはない、と申し上げたいところですが、事情を知った楓様は信じてくれないでしょう。それにそのような気持は一切なかったとも言い切ることができません」
「そうだな。舞は村で名誉回復なり信頼構築をしようという努力をしていなかったように感じる」
 楓様は山から外に出られませんから、それは推測です。けれど当たっていました。私は村では食べ物の交換など必要最小限のやり取りはしていましたが、それ以上の仲を形作ろうとはしてきませんでした。
「わたしは人間とは互いに支え合うべきものだなどと偉そうに説教するつもりはない。そもそも人ではないわたしには分かり得ないことであるし、何より呉葉のことを知っているからな。彼女は村の中では浮いていたようだが、独力で自分の魅力を磨いていった。それは村人にはなかなか理解されないものであったが、それはやがて経という男に見染められるきっかけとなった。それと同じように舞は舞らしく生きてくれればそれでよい。けれどこれまでのように自分を卑下して、わたしのような人外のものに頼るのはやめにしよう」
 お話を聞きながら、一つだけどうしても確かめたいことが出てきました。率直に楓様にお尋ねします。
「楓様は私を面倒に思われていたのでしょうか。いつまで経っても自立できない幼稚な子供が毎日のように遊びに来る。仕方がないから子守をしてやろうと、そういうことだったのでしょうか」
 その問いかけに楓様はきっぱりと首を振って否定してくれました。
「そんなことは一度たりとて思ったことはない。舞に出会えたこと、共に過ごした時間はわたしにとっても大事な思い出となっている。ただわたしが関わり続けることで舞の成長が止まるのならそれは避けたい」
 そうして結びとして楓様はもう一度その考えを述べられました。
「わたしの力で村に平穏が訪れるのかどうか、挑戦してみたい。里山は村なくして存亡できないものだからな。その役に立てるのならできるだけのことをやってみよう。それに災いが落ち着けば舞も自らの変化に向き合い易くなるだろうからな」
 それが木である楓様の考え方なのでしょうか。幼い頃から私のことを見守り続け、異なる時の流れの中で生きるものとしての。
 ならばその決意は尊重されるべきなのかもしれません。人である私とは異なる道を進まれることを決められたのです。そしてそれは遅かれ早かれやってくる別れでもありました。それが今回の一件だったというだけ。まだ心の整理はきちんと付いていませんが、楓様が意を決める中で私のことをとてもよく考えてくれていることも伝わってきました。私はそれに心から感謝すべきでしょう。
 ただ優しく頭を撫でてもらいながら、私はどうしても思ったことを口にせざるを得ませんでした。
「あまりにも遠慮と自制が過ぎますよ……楓様」
 そうして双眸から滴が紅の世界にひらりと舞い落ちました。


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by zattoukoneko | 2012-06-28 05:07 | 小説 | Comments(0)


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