【小説連載】【短編小説】『紅ひらり』第五話


 私が怖れていたことがただ一つだけありました。
 今日もいつもと同じように、私は楓様のもとを訪れます。けれど近くまで行ったところで異変に気付き、慌てて身を隠しました。
 木の陰から楓様の方を見遣ると、数人の村人が集まっているのが目に入ります。
 途端に胸が締め付けられ、息をするのが苦しくなって手で押さえないとどうにもなりませんでした。
 どのくらいの時間村の方たちが楓様の前で話をしていたのかはわかりません。帰っていったのを確認すると、朦朧とした意識のまままろび出ました。
 ふらつく私を、楓様が悲しそうな目をして迎えます。
「ずっとわたしを偽っていたのだな」
 その一言で楓様がすべてを知ってしまったことを悟りました。おそらくは村の方たちが話をしていたのでしょう。
 私には楓様を謀ろうなどというつもりは毛頭ありませんでした。ただ話すことができなかった、それだけなのです。
「村ではまだ厄災が続いているそうだな」
 続いていたというわけではありません。御神木様のおかげで、当時厄は消えたかに思われました。けれど少なくなったものの病に倒れる人は時々いました。数年が経ち、その数は次第に増え始めました。そして今では当時と同じくらいの猛威をふるっています。今年の夏には水も枯れ、村からは半数の人が消えました。田んぼの稲は黄金色になる前に茶色く日干しされました。今年の冬は食べ物がほとんどありません。さらに何人もの人が亡くなられるでしょう。
 厄災の原因は何なのでしょう。最初の犠牲者は父でした。
「確かに経は若くして死んだ。旅を続けていた丈夫な男が、いとも容易く病に伏した。それが本当に厄によるものだったのかどうかはわからない。けれどそれまで何事もなかった村に異変が生じ始めたのがその頃だったから、原因はその近くにあると考えられたということか」
「はい。父が他界したのは私が生まれて間もない頃のことでした。そして生まれてきた私は常人とは異なる髪の色をしてました。ですから村の人たちの目が向くのは自然なことだったと思います」
 それを聞いた楓様は大きく嘆き、首を振られました。
「あまりにも馬鹿げている。髪色こそ違えども、舞はただの人ではないか。経も呉羽も人だった。どうして村に厄など齎すことができようか」
 それは正しいかもしれません。私も何ら特別な力など持っているようには感じませんし、使っている覚えもありません。
 けれどこの話をしてくれたのは他ならぬ楓様ではありませんか。
「人は他とは見た目の異なるものに、何らかの不思議な力が宿っていると考えてしまうものなのでしょう? ならば真偽はどうあれ、私が厄災を引き起こしているのではないかと想像するのは自然なことかと思います」
「……」
 私の言に楓様は押し黙ってしまいました。そして額に拳を押し付け、絞り出すように呻き声を上げました。
「初めてわたしと出会ったときも、この前髪が乱れていたときも、舞は村の者から虐めを受けていたということか。おそらくはそれ以外の日も辛い目に遭わされていたのだろう。だからお前はいつも一人でここにやって来た」
 理由はそれだけではありません。けれどその通りでもあります。私が誰かを誘ったとして、一緒に来てくれる人など村にはいなかったでしょう。
 私は淋しい笑みを返すことしかできませんでした。そして楓様は無言でそれを受け止めました。
 ただ一つだけ疑問がありました。何故村の方たちはここでそのような話をしたのでしょう。楓様は私以外の方の前には姿を現しませんし、そうなれば言葉が通じるかなどわからないはずです。
「舞は毎日のようにわたしのところに通っていたからな。御神木様を除けばこの里山で最も古い木だ。だからその力を使って村に危害を与えているのではないかと想像したようだよ」
 そんなこと私はしていません。お願いしたこともありません。楓様もそのことは重々承知しているはずです。
 けれど村人たちは楓様と話をしたことがありません。私たちの交流や出会いを知る由もありません。村の方たちの想像は間違っています。けれどその思い込みを強くしていたとしたら?
 その私の疑問に楓様が答えます。
「彼らはわたしを切り倒そうと考えていたようだよ」
 聞いた瞬間目の前が暗くなりました。楓様が抱き支えてくれたようですが、それにも気が回らないほどでした。
 耳元で優しい声音が響きます。
「もしくはわたしに新たな神木になってくれないかと頼んできたよ。そうすれば舞と引き離せるし、それだけでなく自分たちの力になってもらえるだろうからと」
 そこまで告げると、しばし楓様は沈黙されました。その胸に私を抱きながら、何事かを考えているようでした。
 やがて楓様はぽつりとその言葉を漏らしました。
「わたしも変わるべきなのかもしれないな。自然に存在するものとしてそれは当然の義務とすら言える」
 そう口にしてから、次に発せられたものは決意でした。
「わたしは神木となろう。自ら望んで変われるというのなら、それは本望というものだ」


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by zattoukoneko | 2012-06-27 17:52 | 小説 | Comments(0)


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