2010年、ノーベル賞を逃した日本。

去年の2010年に日本人の根岸英一さんと鈴木章さんがノーベル化学賞を受賞しましたね。受賞の理由はクロスカップリング技術の開発に貢献したからですね。同時に受賞しているリチャード・ヘックという人物も同じですが、各人で手法は異なります。まあ内容としては大学の化学科に所属する学部生の教科書に載っているようなものなのでざっくりと述べますが――
そもそも「カップリング反応」というものの中の一つとなります。(有機)化合物の結合を行なう際に、同じ構造のものを結びつけるならホモカップリング。別の構造のものを結びつけるならヘテロカップリング、またはクロスカップリングといいます。
薬品の構造式を風邪薬などのCMなどで見たことがあるかと思いますが、大抵はベンゼン環が複数繋がっています。しかしながらこの反応を起こすのが難しく、様々な触媒を用いて成功させようとしていた時期があったのです(根岸さんや鈴木さんはこの触媒やそれを用いた反応に差があるということになります)。今では当たり前のように身の回りに安価に溢れている薬品ですが、これらはこのクロスカップリング反応の誕生がなければ成り立たなかったものなのです。ですからノーベル賞委員会は後世に多大な貢献をした研究として根岸さん、鈴木さんに化学賞を授与したのです。もともとノーベル賞というのは後世の社会福祉に貢献するような研究に与えられるものですからね。とても納得。

さて、これはとても喜ばしい報せではありますし、日本で「クロスカップリング」の言葉を知らない人が珍しいんじゃないかというくらいに話題になりました。ですが……先ほども述べましたがこの反応に関してはすでに大学の“教科書”に載っているようなもので、化学をある程度勉強したことのある人なら根岸・鈴木という名前は何度か耳にするくらい有名なのです。正直な感想としては、『あ、ようやく?』という感じです。今の化学はもっと先のことに着手していますし。
もちろん根岸・鈴木両名の功績は称えられるべきであり、その価値は揺るがないものです。しかしノーベル賞の問題点の一つとして“受賞させるまでに時間がかかりすぎる”という点があります。これは実際に社会に貢献があるかどうかということや、他の研究者から認められているかどうかということが勘案されるからです。
カップリング反応に関して熱心に研究が行なわれていたのは1970年代です。つまり40年も前。これでも受賞は早いほうだったりしますが、そのくらい時間がかかるのです。ちなみに1970年代だとようやく社会に「環境問題というのがあるらしい?」と認識され始めた頃。日本には72年に環境庁ができていますが、これは環境問題を扱うものというよりは公害や公衆衛生を扱う部署でした(一部の人物のみが世界的な動向を見ていたようではありますが、まだ酸性雨やオゾンホールなんて知られていない時期です)。現代では環境問題というものを目や耳にしない日はありません。ペットボトルはリサイクルしやすいように改良されてきましたし、ゴミの分別なんていうのも当たり前。車はどんどん低燃費になってCO2をほとんど出さないものなんていうものの開発にメーカーは力を入れています。そう考えるといかに時代が変わっているかわかりますよね。科学の世界も同様に新しい問題を見つけてそれに取り組んでいます。なので『あ、今頃クロスカップリングなんだ?』という感想になってしまうわけです。


一方、ノーベル物理学賞で名前が出てきたグラフェンは学会にセンセーションを巻き起こしました。何せこちらは注目されだしてからせいぜい10年での受賞なのですから。
グラフェンに関してはよくわからない詳細に述べるのがちょっと難しい感じです。見てみたらwikipediaにも項目がありましたので検索をかけて見てみるといいと思いますが――数式で頭が痛くなること間違いなしです(苦笑) ここでは本当にざっとした説明と、この受賞によって起こった、しかしほとんどの日本人が気付いていないことを述べるに留めようと思います。
グラフェンの画像を見たことのない人もいるかもしれないのでリンク。こんな感じです。グラフェン画像集このように蜂の巣構造をした薄いシートのようなものがグラフェンです。炭素原子から出来るものに黒鉛がありますが、あれはあの蜂の巣構造が幾重にも重なってできたものです。そういう意味では黒鉛などの他の同素体の基本構造とも言えます。
しかしグラフェンの大きな特徴として、とてつもなく薄いにもかかわらず不透明度が高いということ。これはもう一つの大きな特徴である電導性と関係があります。物質中を電気(物体としては電子)が移動するには低温の方がよいのですが、常温でも銀より抵抗が少ないくらいです(ちなみに電線は銅を用いていますが、効率としては銀を使ったほうがよいのです。金属の中では一番常温で電導性に優れていますから。実際に昔は銀を使用したこともあるのです。でもまあ銀ですからね、盗まれちゃうから銅に切り替えたというお話があったりします……)。その他量子力学のかなり難しい話になるのでざっくりカットですが、電子の振る舞いからエレクトロニクスの分野で使えるのではないかと考えられています。
どういうことかというと今まではケイ素からできていたシリコンを半導体として利用し、コンピュータや携帯端末を製造していました。けれども現在ここにグラフェンを利用できるのではないかと熱心に研究されているのです。これが実現すれば非常に軽量でありながらこれまで以上に電気信号を効率よくやり取りできるような電気素子がつくれるということです。またこの辺りは色々研究されている途中のようで、これは私も本当に詳しくないのですが、どうやらシリコンに比べてずっと軟らかいみたい? 指でつまんで曲げてみせている画像を見たことがありますが、こうなるともう『ハード』という感じではないですねー。……質感が人間そっくりのメイドロボへの布石か(ぇw
まあこんなのがグラフェンです。物質として実際に社会への貢献がすでに現れているというわけではないのですが、しかしその可能性の高さが評価され異例の早さでノーベル賞を受賞しました。これには科学者たちもびっくりです。何せ自分たちはまだそれより前のものを研究していたのですから。

炭素の同素体として注目を浴びていたものが最近いくつかありました。炭素の同素体としては「黒鉛」「ダイヤモンド」「不定形炭素」そして数年前に高校の教科書にも追加されましたが「フラーレン」と「カーボンナノチューブ」があります。ここに新しく「グラフェン」というのが付け加えられたということになります。研究が熱心にされていたのはフラーレンとカーボンナノチューブとなります。
フラーレンは英語では俗にbuckyballとも呼ばれます。サッカーボールそっくりの形をしているのですね。中は空洞で、反応をうまくやると中にナトリウムやバリウムなどの小さな金属を入れることができました。これをやると超高温(といっても化学での話なのでマイナス数十度とかですが)で超伝導が観測されました。なので超伝導の素材として熱心に研究されていたわけです。ま、他にも活用法はあるとは聞いてはいますが細かい話は省略。というか研究している人のものを暴露できない(苦笑)
カーボンナノチューブは円筒形のとても細い管状の物質です。使い方は様々ですが期待されていたものを。一つはそれを束ねるととてつもなく強固な素材になるということです。これは簡単に実験できるのでやってみて欲しいのですが、チラシをくるくるっと細長い筒にします。これは一本だけだと小さな力で曲がってしまいます。ですがこれを何本もまとめると相当な力を入れても曲がらなくなります。これを利用したのが実はダンボールだったりします。中空なので力が分散されやすく、そのため紙であってもやろうと思えば単純な塊でしかない鉄よりずっと強固になるのです。この紙の管は細ければ細いほどよく――つまりはカーボンナノチューブなんていうナノ単位のものでつくればもっと頑丈になるのです。また中空ということはその分軽いので航空機などに利用しようという案もありました。あとこれは実現するかどうかさすがに微妙ではないかと個人的には思っていたのですが、地球から月までのエレベーターをカーボンナノチューブでつくろうなんていう話もあります。そのくらい頑丈になると理論上では計算結果が出る。
もう一つ面白く、そしてこれはほとんど実現間近であったものが、水素燃料を蓄えるのに使うというアイデアです。水素は非常に爆発性が高い物質です。小学校の実験で金属を塩酸で溶かして水素を発生、それを火に近づけてポンッと音を鳴らせるなんていうのがありますが、あれは試験管に収まるくらいの少量だからあのくらいで済むのですよね。テレビなどで言われている水素燃料自動車とかになると大量に水素を積み込むことになります。まあ、これに火がついたら車なんて軽く吹き飛びます。
ですがカーボンナノチューブの直径がちょうど水素原子を綺麗に収めてくれる幅だったのです。なのでこれを束にして集めれば水素を安全に(すなわち他の物質と反応させることなく)保存しておくことができるのです。なので水素自動車などに利用できるのではないかと考えられていたわけです。
ただカーボンナノチューブで問題になったのは……発癌性があったのですよね。これは随分最近になってわかったことなのですが。なのでそこは取り扱いに慎重にならないといけないという。

でもこれらは非常に面白い物質であることは間違いなく、熱心に研究がされていました。軽い、丈夫、電導性で興味深い、などなど。しかし…………ここにグラフェンが唐突に現れてしまったわけです。それぞれ違うものではありますからね。これまでの研究が水泡に帰したということはありませんが、しかしグラフェンの方にかなり移行することを迫られているのも実際のところだと言えるでしょう。科学研究の価値としてはフラーレンやカーボンナノチューブよりグラフェンの方がずっと高くなった感じがします。多くの人が知っていると思いますがNature誌やIEEE(米国電気電子技術学会)では続々とレポートが集まっているようですし。


で。ここ日本人にとって重要。
「カーボンナノチューブの発見者は誰ですか?」
答え。日本のNEC筑波研究所に勤務していた飯島澄男さんです。1990年代の最初の頃でしたね。
カーボンナノチューブはその構造の特異性から基礎の分野でも注目を集めましたし、上記のように応用の面でも非常に価値がある。これから先、科学にも社会にも大きく貢献するだろうと考えられていました。
ですが去年一足飛びにグラフェンが受賞してしまった。ということで飯島さんのカーボンナノチューブによるノーベル賞受賞はなくなったというわけです……。日本は手に入れるのがほぼ確実ではないかと思われていたものを一つなくしたことになるわけですね。
と、まあちょっと悲観的に言ってみましたが。今後カーボンナノチューブでの研究で大きな功績が上がれば再評価されて受賞する可能性はあるかと思います。グラフェンももしかしたら時期尚早で大した成果が挙がらないかもしれませんしね。…………まあ、ノーベル賞は一度出たらそうそう自分たちの評価を覆しませんけどねorz(ちなみに参照。ノーベル賞最大の汚点・山際勝三郎について


ま、何にせよこの50年くらいで見つかった新しい炭素同素体のフラーレン・カーボンナノチューブ・グラフェンは今後研究が発展していく分野だと思います。専門書はさすがに難しいですが、そのうち一般書とかも出るのではないですかね? 見かけたら手にとって見るといいと思いますよー。
ということで今回はこの辺で~。ではではー。
by zattoukoneko | 2011-02-13 02:26 | 物理 | Comments(0)


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