『好き好き大好き、だから嫌い』プロット

第8回電撃掌編王・最優秀作品賞『好き好き大好き、だから嫌い』のプロットの説明です。これに関しても手元に残っていません。というか見てもらえればわかりますが、残せるようなものじゃないのですよね。これそれなりに複雑なので。
最後のプロットだけ見せるだけなら簡単なのですが、意見交換を重視ということで制作過程の途中のプロットもいくらか公開します。というか多分これ説明しないと意味わからないですね、きっと。



そもそもこの話は元に大きなプロットが三枚重なっています。
一つ目は「一人の世界の崩壊」
二つ目は「初潮」
三つ目は「自分の心の中の探求」
という感じです。これを全部同時進行させて(プロットを重ねて)新しくプロットを書いて調整してます。特にこれだけの分量があると当たり前のように2,000字に収まるわけないですから、エピソードは削りまくってます。本来であれば短編(原稿用紙70枚)程度にはなるはずだし、キャラも追加することを考えると中編から短めの長編くらいにはなるのだと思います。

ということでそれぞれ大元のプロット説明をしなければならないのですが――
これに関してはすでに他の作品の紹介時にどういう流れになるか説明してますし、最終的なプロットから大事な要素をどんどん抜いてますので、分量を減らすためにかなり省略します。
「一人の世界の崩壊:反抗期からの脱却」に関しては、
『トトロ』の紹介
「初潮」に関しては、
宮崎駿作品の物語構成
宮崎駿、各作品紹介
を見てきてくれると助かります。これまた一から説明してたら文字数オーバーに軽くなるので(汗)

これまでの記事で説明してないのは「自分の心の中の探求」でしょうか。これはやらないといけませんね、さすがに。
「自分の心の中の探求」に関しては思春期のアイデンティティ形成の心理メカニズムの一つです。一つ目のプロットの「一人の世界の崩壊」と酷似していますが、時期がそれより後になります。
まず「一人の世界の崩壊」は現実世界へ目を向けるということになります。これに関しては私の記事で『Dreams』という小説の案を昔練っていたことがあると書いてあって、それを見てくれればわかると思います。
ただこれだけでは完璧な反抗期の終了を意味しません。まだ現実世界に目を向けただけですので。
ちょっと言葉だけの説明だけではわかりにくいですかね。他作品を借ります。
エヴァ(TV版、旧劇場版)で言うと、アスカがメイン三人のパイロットの中では唯一これを成し遂げています。彼女は自分独りで社会の中で生きていこうとしていて、すなわちアイデンティティを確立して現実世界の中で戦おうとしてます。(一方でシンジはまだ自分の世界に閉じこもっていて、そしてその自分の中の仮想世界に何度も逃げ込みます。なので何度かエヴァの中に取り込まれてますね。ですがアスカはエヴァを覚醒させても融けませんね。この違いは二人の成長段階の差として説明することができます)
でも“独り”なのですよね。本来であれば反抗期が終わるときに主に両親との確執が取れ、他人と結びつくはずなのですが、アスカはパイロットに選出された直後に母親が自殺しますからそれが達成されていないということになります。なので反抗期がまだ終わっていないということです。
「自分の心の中の探求」はこの他の人と繋がるための一つの通過儀礼となります。他人を知るためには自分のこともある程度知らないといけませんから。(あ、そういえば新劇場版ではこっちにシフトしてきてるみたいですね。アスカだけではなく)

ということで、反抗期・思春期の中の並びとしては、
「一人の世界の崩壊」→「自分の心の中の探求」→「初潮と他人からの認め」
という順を追います。
『好き好き大好き、だから嫌い』では一応全部をカバーしていますが、文字数の制限などからテーマを「自分の心の中の探求」の途中で中途半端に終わるという形にして話を組み立てることにしました。だから彼女たちの話はきっと続くのでしょうね。(当たり前か、人間生きてて成長していくのですから)



以上が基盤となっているプロットです。
ちょっとプロットから離れてキャラクター設定をここに重ねます。そうするとキャラ設定の意味がわかるでしょうから。

物語の核となる“ツンデレ”ヒロインの湊ですが、再度引用しておくと――
 親との関係は良好とは言えず
 親との精神的な距離が離れていた環境で育った
とあります。
完全に親から引き離されているわけではないのですが、これは反抗期に入る前の準備です。
それと年齢が14歳と低く設定してあるのは、「初潮」の話があるからです。さすがにこれ以上年齢を高くするとおかしくなりますからね。(まあ、そこまで厳密にやることではないですから、最終的にはプロットおよび応募原稿からはカットしてます)

また「初潮」はできるだけ異性から内面を見抜いてもらうのが望ましいわけです。ですので主人公の絹塚は一人称が「ボク」なのです。結局は同性なわけですが――
 姉がやたらと少女趣味なので、それに反発してか「ボク」と自分を表すように
とあるようにそれなりには男性側に傾いています。
またこれはこの「初潮」と「自分の心の中の探求」の両方に関わることですが――
 相手のことを理解しようという広い心の持ち主。
なのですね。ですから湊のことをよく見てくれて、彼女の内面を見抜くという「初潮」の方での役割を大きく担っています。と同時に湊の方は自分ひとりではまだまだ自分の内面を見抜けないのですよね。ですからそれを絹塚に手助けしてもらうという形になってます。



という感じが予備知識。ここから実際の最終段階のプロット説明に入っていきます。一気に複雑化させますね(笑)

まず実際の最終原稿を見てもらえればわかると思いますが、四つに分割されています。これ、起承転結での分割です。(ただし根幹のプロットがすでに多重なのでそこまで綺麗な起承転結となっていませんが)
実際にこれが活字にされたときを考えて、文字数や段落の数も調整してあります。これは縦書きにされた『電撃hp vol. 49』を見てもらうのが一番わかりやすいのですが(苦笑)
ま、とりあえず文字数とか段落数を書いておきますか。(行数は42×34でカウント)
起:459字、23行
承:441字、23行
転:555字、25行
結:545字、23行
となってます。転と結の部分が前二つと比べて多いですね。ここは基盤のプロットから考えると理由がわかるかと思います。
起(および承)では反抗期に突入するための準備(キャラクター背景・問題)を提示するだけで、これは三枚のプロットすべてでほぼ同じなのですね。
ですが転と結ではこの三つのプロットは変わります。「一人の世界の崩壊」ではまず現実世界に直面してもらわないとなりません(=猫が轢かれそうになるという事件)。「自分の心の中の探求」においては自分の感情の揺れ動きを感じてもらうことが大事(=猫を助けたところでの叫び&動物病院での絹塚との会話)。「初潮と他人からの認め」では絹塚との交流が鍵ですね(=湊のことがわからない&動物病院へ連れて行く&湊のことの理解)。このように色々なものが一気に同時展開しますので、ここの分量はこれ以上削れませんでした。一応これでもエピソードを泣きながらなくしてるんですけど、さすがにこれ以上は無理でしたね。


もう少し具体的に見ていきましょうか。
四つのパラグラフ(と呼称させてもらいますね)が起承転結になっているというのは先に述べたとおりですが、これはさらに起承転結に分けられてます。ですので全体は16+αに分割されてます(αについては後述)。ただしここはどんどんエピソードを削っていってしまったので原型はもう留めてないですね。一番最初に書いたのが確か4,300字程度になってたと思います(このファイル見つからないです。どうやら上書きしてしまった模様……)。この段階でもかなりエピソードを省略してたので、最終稿はさらにわからないですね。なのでざっとだけ説明しておきます。

起の起:湊紹介・絹塚との出会い(イメージとしてはボーイ・ミーツ・ガールですかね)。
起の承:二人の関係紹介。
起の転:交流がうまくいっていないことの明示。
起の結:しかし最終的に湊が絹塚を引き連れていく。

承の起:湊の絹塚への接し方。
承の承:それを受けての髪を引っ張る描写。
承の転:先生に聞こえるも湊は気にせず。(ここは後の転のために軽く)
承の結:絹塚の嘆き。

転の起:絹塚の湊への感じ方。湊の気持ち(やや自身の内面と外の絹塚を見る描写)。
転の承:湊の気持ち(ここは他のプロットがあるため重複)。猫のじゃれつき。
転の転:猫(ここも重複)。猫を拒絶。その猫が車に轢かれそうになる。湊が助ける。湊の動揺。
転の結:湊の動揺(重複)。絹塚が湊を連れて動物病院へ。

結の起:湊の吐露。絹塚がそれに目を向ける。
結の承:湊の吐露(重複)。二人の会話。
結の転:湊が激情(=自分の本当の気持ち)を絹塚にぶつける。猫が助かる。湊の涙。
結の結:絹塚の湊への理解。一方で自分の心をまだ把握しきれていない湊の「腹が立つ」とそれでも絹塚に知らず知らずにすがる姿。

という感じになってます。元々のプロットの量が掌編に収まるようなものではないですし、話を読みやすくするためにやや順序が前後してます。実際にはもっと複雑になってますが、この文章での説明ではちょっとこの辺りが限界ですかね。
というか起承転結の役割果たしてないですねえ……。


次に+αの説明です。
転に相当する第三パラグラフのみ、最後に一行程度の風景などの描写が入ってないです。代わりに他にはすべて入れてあります。
この最後の一行は(前回に世界観を説明したときに触れましたが)絹塚の心理を表しています。結の第四パラグラフだけは別の効果を持たせていますが。
第一パラグラフの、「今いた所に扇形の葉っぱが舞い落ちた」、というのは落胆と状況についていけていないということの比喩です。
第二パラグラフ、「黒板から落ちる白い粉は、ボクがまだ写し終わっていないチョークの文字からできていた」、は悲しみとか諦めの感情ですね。『どうしたらいいのこれは?』という気持ちです。黒板の文字は消されたらもう見えませんし。また落ちる粉は“白”です。これは墓の白石などのイメージから繋げてきてます。ようは“死”のカラーですね。
第四パラグラフの最後だけは比喩ではありませんね。「立ち上がる彼女はボクのスカートをしっかりと握りしめていた」は、半分オチとして、半分はインパクトのある結としての効果を狙ってます。どちらとして受け取るかは読み手によって異なると思いましたので、私自身もオチとは考えてません。いくらか働くかもねぇ、という程度で、プロット上でもオチと書いてませんし、実際にそういう内容にはしないようにしました。
で、第三パラグラフだけないのですね。これはバランスをとるためです。第一と第二で比喩として一行程度入れておくことで第四でのこの一文の挿入があまりに突然にしないようにしてあります。これは明確なオチにしたくなくてその効果を薄めるためです。一方で第三にないのはここにまで入れてしまうと第四の最後の一行が弱くなりすぎてしまうため。またここは物語の転(=急展開)ですから、ここからは一気に読み進めて欲しかったので、休憩させてしまうような比喩は省いたという理由があります。



大体こんな感じでしょうか?
これが“表面上の”プロットとなります。
山本辰則様には伝えてありますし、物語を書いたことのある人はわかると思いますが、起承転結とかはプロットの最後の方で入れて話を綺麗にまとめるものです。またキャラクターの設定とかも最初は入れません。
プロットの最初の段階、まだアイデアをどんどん出していって並べている段階ではただの地図みたいな感じで起承転結とかは(まったくとは言いませんが)考えてません。
実際、今回の説明でも伏線とか、どこがどう繋がっているのかは説明してないですね。これは「文章で書けません」のでやってません。不可能ではないでしょうが、どことどこが繋がっているとか全部説明していったら文字数が大変なことになりますし、読んでもわけがわからなくなると思います。(一応、ここまで書いたことを踏まえた上でもう一度読むと何となくわかるとは思いますけど)
ということですので、今回書いたのはもうほとんど最終段階のプロットの説明となります。初期の段階のものは先に述べたように地図みたいな感じですので文章化がほぼ不可能ですし、ここから何度も修正や上書きをしているので、全部それを説明するのは無理かと。
というか企業秘密w いつキャラ設定に着手するのとかは明かせないですかねぇ。
――と、まあ、企業秘密というのは冗談です。ここは複雑すぎますし、私自身話をつくるたびにいくつもの制作術を使っていますから、正直この順序は毎度毎度変わるのです。ですからこれを話しても見た人の役に立たないだろうという判断です。各人で得意とする順序は異なるでしょうし(キャラを早めにつくるキャラクター重視の方、あるいは文章の並びや見た目で感動させる純文学よりの人などはどこに何を書くのかを早い段階で考えるだろうと思いますね。私は一応あらかたのものを使えますが、考えているうちに変わってしまうこともしばしば。これ、使いこなせるようになりたいですねえ)。



以上でプロット説明終了です!
やばい! キャラクター設定の説明とかと比べてはるかに内容、というか書き方が重い気がするw!



あ、追記。プロットの話ばかりで二点ほど説明忘れ(汗)

まずタイトルです。使わせてもらったのは『好き? 好き? 大好き?』です。内容は各自で読んでもらって確認して欲しいところですが、心理学を詩にした感じものです。このタイトルの詩ではなかったと思いますが、心の楯とか出てくるのですよね。ですのでこの作品の内容にも合っていたので使いました。
ただし。「好き? 好き? 大好き?」と毎回「?」とスペースが入れられるとそこで読む人が区切ってしまいますので、これをすべて繋げて一気に読ませ、追加で足した「だから嫌い」の前に「、」を打ってます。語感を重視しつつ、ここが切れ目という意味もあります。

二つ目にコメントですね。
私は「ツンデレってどんな子?」と書いてます。
これ、ようは「ツンデレ」なんていないでしょ、という意味で書いてます。これは受賞時に書いたメッセージからも読み取れるかと。
もちろん「ツンデレ」(に相当するきちんとした性格の分類)は学問的に認められています。ですが「ツンデレ」という萌え属性として形だけでキャラをつくるのは、私の目指すところではないので破棄しました。したがって、ただの記号だけで「ツンデレ」と表すことのできるキャラクターに人間味はあるの?、というのが今回私がやってみたこと。私の出した答えは――作品やプロット、キャラ設定などを見てくれればわかるかと。
by zattoukoneko | 2010-06-13 11:32 | 作品品評 | Comments(0)