日本は模倣するだけの国か?

今回の記事の予定は「ニュートン」でしたが、前回「お守り」という日本の文化の話をしましたので、それと繋がりのいい話に切り替えることにしました。


さて、よく「日本は模倣をするだけの国だ」とか「日本人は真似をするのがうまい」ということを言われます。
確かに日本語の文字(今ここに書いているものも)は中国由来のものです。また稲作も弥生時代に大陸から入ってきたものです(ただしこのときには人種そのものが変わりますので妥当なものかは疑問ですが)。また近代の方に移っていけば明治維新によってそれまでの幕府による体制は一気に廃止され、それまで行われていた日本の国学や和算などは消えていき西洋近代科学へ切り替えられます。憲法もドイツが主(と言われているが、まだ議論の途中)でつくられていますし、大学の制度もドイツの博士号を与えるものを導入したりアメリカでできたばかりの大学院というものを取り入れてきます。また現代でも海外の言葉をそのまま使っていたりします。
これだけ見ると確かに日本は国外から導入したことばかりでできている気がします(確実な例外は鎖国していた江戸時代の日本画くらいのものでしょうか?)。ですがそれらをきちんと検討せずに「日本は模倣しかしない」と結論してよいものでしょうか?
今回は上で挙げた事例(稲作は除きます)について少しずつ触れてきたいと思います。


まず日本の文字についてです。
確かに私たちが使っている漢字は中国でつくられてそれを使っています。
ですが「ひらがな」はどうでしょうか? あるいは「カタカナ」は?
中学くらいで教わっていると思いますが「カタカナ」や「ひらがな」は平安時代に女性貴族の手によって考案されたものです。元々は漢字から来ていますが、そこには明らかに日本人の手による介入が見られます。
また漢字には「音読み」と「訓読み」があります。音読みは(時代によって種類がいくつもありますが)中国の読み方をある程度そのまま使ったものです。対して訓読みは文字が伝わってくる前から使われていた日本語の発音を当てはめたものです。すなわち意味が近いものにそれまで口にしていた音をあてたということになります。つまり日本人は中国の文字をそのままの形で導入しつつも、その読み方には自分たちの流儀をある程度貫いたと言えます。
また中高で漢文を習うと思います。このときに「レ点」とか「上下点」なんてのを教わったかと思います。あれは元々の中国語の語順(英語のSVOCに近い)では日本語に当てはまらなかったため、自分たちの語順に合わせるように入れていったものです。これは日本人の工夫であり、そのまま中国語に移行しようとしていなかったという明確な証拠となります。
同じようなことが英語に対しても言えます。日本人は漢文の例で見られるように他国の言語に対して研究熱心だったようです。英語でよく言われるSVOC(これの並びによって英語の文の基本構造がわかるというもの)は日本人たちが生み出したと言われています。昔の日本人たちなりの、英語をいかに上手く解釈しようかという努力の成果です。
(ちなみに余談ですが、欧米の人が中国語を本格的に学ぶためにはまず日本語から学ぶ必要があるそうです。それは中国語の最も優れた辞書が日本人の手によって日本語で書かれているためです。そのため中国語の漢字を理解するためにはその辞書を使わなければならない。そしてそれを読むためには日本語が必要ということです)


次に明治維新以降の日本の近代科学の導入について見てみましょう。
明治維新がなぜ起こったのかについてはまだまだ議論の余地がありますが、単純に言ってしまえば「西欧諸国が怖かったから」です。
ペリー来航によって明確に日本と西欧文化圏の技術レベルの格差が見せつけられました。当時の日本人には鉄が水の上に浮くとは考えられなかったことです(まあ、黒船の大半は木造船を黒く塗っただけのもので、全部が鉄の船ではなかったわけですが)。
これに危機感を覚える武士たちが多数出てきたというわけです。このままではいずれ日本は攻め入れられ、占領されてしまうと考えたわけです。だからこそ日本は開国し、西欧の技術を取り入れなければならないと考えたわけです。
そして明治維新が起こるわけですが、技術を導入する際にその根幹には西洋近代科学があるのではないかとされました(ただし科学が技術に明確に貢献したと言えるのはWWIからです。WWIで毒ガスがつくられ、WWIIでは原子爆弾がつくられました。それを象徴してそれぞれChemical War、Physical Warと呼ばれます。国益に科学が役立つとしてできたドイツのカイザー・ヴィルヘルム研究所も1911年の設立です)。
日本人(の武士たち)は科学に自分たちの生きていく道を見いだそうとします。その際議論になったのが、西洋の科学は、科学「だけ」日本に持ち込めるかということでした。
科学の根幹にはキリスト教の影響が非常に大きく見られます(これはそのうち記事にしましょうか)。となれば自分たちもキリスト教の教義に染まらなければ西洋近代科学を身につけることはできないのではないかと考えたわけです。これに対して日本人は自分たちの道徳を貫いていいんだという和魂洋才という考え方と、(こういう言い方は見たことがないのですが)洋魂洋才が対立しました。後者はとても代表的な人物がいますね。『学問のすすめ』を著した福沢諭吉です。
これに関しては現代の私たちを考えてみればどちらがとられたかすぐにわかるかと思います。少なくとも日本人のすべてはキリスト教の信者ではないはずです。また過去の方をきちんと調べてみても(キリスト教に宗旨替えした科学者は確かにいますが)キリスト教の洗礼を受けた学者でリストのすべてを埋めることはできません。
このように日本人は西洋の科学をそのままただ真似るだけではなく、きちんとその際に議論をしているのです。また日本人固有の研究も多数なされています。たとえば旨味成分のもとがL-グルタミン酸ナトリウムであると発見した池田菊苗なんてのが代表的でしょうか。あるいは日本で流行していた脚気の研究で病気がビタミンの欠乏によっておこることがあると解明した鈴木梅太郎なんかも有名です(ビタミンという命名は結局日本人の手柄にはなりませんでしたが)。
また現代のほうに行けば技術面では日本の町工場は世界的に有名です。PCのファンはほぼ100%日本製ですし、携帯のバッテリーのプレスの技術は日本人の手によるものです(こちらは特許を取らずに惜しみなく公開してしまいましたが)。また科学実験の際に使われる地面に水平で、真っ平らな作業台は日本人が手作りしてます(この人、私が知ったときにはもう大分ご高齢でしたが、今もご健在なのでしょうか?)。あとはパンの生地などを練り上げる流動科学の知識が必要な大量生産機械をつくったのも日本人が初ですね。他にも……まあきりがないのでこの辺にしときます。こうした町工場は(もちろん西欧の技術なんかも取り入れていますが)独自に試行錯誤して製作していったものです。西欧の後追いをしているどころが、圧倒的に抜きん出ていさえします。
このように西欧の科学/技術を導入した日本は、けれども独自の歩みをきちんとしているというわけです。


憲法や大学の制度も同じです。岩倉使節団などが西欧諸国を巡ってきて、そしてそれを日本風に「アレンジ」します。けしてどこかの国一つだけのものをそのまま持ち込んだわけではないのです(だからこそどこが一番主なものなのか議論がされ続け、そして答えが出ていないわけですが)。
特に法学や文学においてはそのまま西欧のものを持ちこめないと外国へ留学した日本人の多くが感じてます。夏目漱石なんかは英文学から文学の本質を見いだそうとして失敗し、「夏目狂セリ」なんて手紙が日本に送られてきてるくらいですから。


現代の日本人が使う西洋語はどうでしょう?
これも大分日本人によってアレンジされてますね。Japanglishなんて言葉があるくらいで、日本人の感性のまま英語やその他の欧米語を混ぜてつくられた造語の類です。
あとJapanglishではないですが、「科学技術」という語は日本人の発明で、アジア諸国には伝わりますが、西欧の人には伝わらないようです。西欧では元々科学と技術は全くの別物として育ってきて(たまに影響しあうことはありますが)、そのため今の人たちも別物としか思えないようです。そのため学者間では上で書いたような「科学/技術」という表記が時々用いられます(「/」の意味はその前後で切っても、繋げてもいいですよ、という意味です。つまり「科学/技術」とかけばそれ一つで「科学」、「技術」、「科学技術」を指すことになります)。
またそのまま外国語のまま表記しなかったり、中国や韓国のように無理矢理自国の文字で当てはめないところも面白い特徴です。これはカタカナという便利な道具があったことも関係しているでしょう。原音にできるだけ近い文字を当てはめながら、一般の人にも伝わりやすいように工夫されています。上で挙げてきた例や宗教(神学)といい、日本はかなり柔軟な国のようです。これは日本に固定したアイデンティティがないということではなく、むしろその対応の早さこそが日本人の特性だとみなすべきだと考えられます。



さてはて日本ばかりが「模倣する国」と言われますが、じゃあ他国はどうなのでしょう?

肝心のヨーロッパ諸国は中国から火薬・印刷術・羅針盤と持ちこまれてきており、後々改良が加えられるとはいえ、それまではほとんど変わっていません。火薬は部屋に糞尿をためて壁に付着した結晶を取るという方法がしばらくは用いられますが、これはヨーロッパ独自のものではなく、江戸の日本でも花火用の火薬は似たような形でつくられていました(花火は火薬の製造技術が廃れるのを防ぐために幕府が推奨したものです)。ようはヨーロッパの独自性は薄いということ。最終的に大航海時代を迎えてチリ硝石という鳥の糞が年月をかけて火薬となった層を見つけるまではこの方法で火薬はつくられます。
印刷術、および製紙技術は中国から伝わってきたものからやはりあまり変わりません(伝わってきたのは11~12世紀頃)。これは木版印刷という木の板を使う――ようは版画です。あとはレオナルド・ダ・ヴィンチなどの高級職人と呼ばれる科学者に近い技術者たちが自分たちの絵をするときには銅版を用いたくらいでしょうか。最終的にはグーテンベルクがアンチモンとスズの合金を利用した活版印刷技術が発明され、それで本が安価になって広まるわけですが、この発明は1445年頃とされますからそれほど技術の革新が早いわけではないですね。
羅針盤については――技術の内容が細かすぎるので割愛します。書いても理解しきれる方は少ないと思われるので。
(なお、中国とヨーロッパの科学/技術の水準についてはジョセフ・ニーダムという中国科学史の大御所がやっています。大学に通った方なら名前は一度は必ず聞くというくらい有名な人。この人によればヨーロッパが中国を抜くのは産業革命から科学革命(終わりはニュートンの『プリンピキア』出版の1654年とされるのが通例)の辺りで一気に行くみたいですね)

じゃあ中国はどうでしょう? 自ら世界の中心であると名乗っている「中華人民共和国」です。
中国は確かに昔はまさに「中華」でした。上記の三大発明も中国における錬金術などから生まれたものですし、朝鮮半島や日本には稲作や仏教などを伝えています。
ですが16~17世紀にはヨーロッパに抜かれ、19世紀にはアメリカにも抜かれます。そして子分だったはずの日本には日清戦争で敗れます。このときには(少なくとも科学/技術の面では)後進国になっていました。
現在も――日本のことを敵視しながら――どうすれば日本のように学問の世界でトップ争いをできるか模索しています。実際中国で一流の研究者になろうとする人は日本をはじめとした他国に博士号を取りに行きます。中国内でとっても認めてもらえない状態です(これは明治・大正の日本でも同じことですが)。
どうやらいま中国内部は自分たちのアイデンティティを守るのと、一方で他国の模倣をしなければならないというジレンマでいっぱいのようです。

中国以外のアジア諸国はどうでしょう?
東南アジアは中国や韓国、台湾よりもずっと遅れています。先進国の支援を受けながら発展していこうという段階で、まだまだ自分たちのオリジナルというものが出てくるのはまだ先のことになりそうです。
また言語に関してはマレー語が世界で二番目に使われている言語ですが(一番はもちろん英語)、現在は文字は英語のアルファベットを用いてますね。発音もほとんどローマ字読みで簡明です(マレーシアとインドネシアではいくらか発音や単語が違うものがあるみたいですが、まあ日常的に使う分には問題ないはずですね)。英語のアルファベット文字を使うようになったのは、おそらく植民地時代の影響でしょう。現在でもマレー語も英語も、あといくらか日本語も混ざって看板などには表記されていて、話せる方は多いですし。ただそれまで使っていたサンスクリット文字から割合簡単に移行してしまったみたいですね。


まあ他にも南米やアフリカ、あととても大きいロシアの話とかもありますけど、比較として出すのは上のもので十分でしょうね。
こうした国々と比べてみると日本は特別「模倣する国」とは言えなさそうです。
むしろ頑固な西欧諸国と比べてしまうと、日本独自の「柔軟性」が軟弱なものに見えてしまうということのような気がします。それが「模倣するだけだ」と言われてしまう理由なのでしょうね。
私としてはその「柔軟性」こそが日本の独自性な気がします。(前回の記事と無理矢理結びつければ)それが八百万の神の住む日本の姿だなと感じます。
by zattoukoneko | 2010-03-18 02:55 | 社会・経済 | Comments(0)


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