『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の構造

今回と次回は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』について取り上げたいと思います。
まず今回は物語の構造についてです。よく起承転結というのが言われますが、ことハリウッド映画に関してはこれをそのまま当てはめるのはちょっとつらいはずです。実はハリウッドは別の物語構成をとっています。今回はそのお話。
で、テーマに関してが次回です。前々から言っているように男らしさの否定がテーマなのですが、これが日本人には分かりづらい。そのため色々と背景をご説明しなければならんのですが、これがなかなかな分量になりそうで、二回に分けさせてもらうことにしました。


さて物語の構成についてお話したいと思います。
日本には起承転結と序破急というものがあります。一般的によく言われて使われているのは起承転結というやつですね。これは明治~大正くらいに日本に導入されたものだと思われます(私は文学史に詳しくないのでこの由来は知らないのですが)。そもそも日本の文学界において小説というのが主流となったのがこれくらいの時期からです。その前は和歌などが中心ですよね?
序破急というのは雅楽などで用いられていたものです(雅楽が発祥で、能で使われるようになった、が正しいんですかね)。なのでこちらは起承転結よりも歴史が古い。
これらについて知らない方もいると思いますので、少し説明しておきます。

起承転結は次のような構成になっています。
起:登場人物の紹介・世界観の説明・主人公の抱える問題について提示
承:主人公が問題に立ち向かっていく。その過程で「課題」が提示される。
転:「課題」をこなしていくうちに、それに対して疑問などが生まれる。主人公の成長。
結:「課題」を克服する。結果として主人公は問題を克服し、成長を遂げる。
という形になっています。
まあ、本当はもっと細かく説明しなきゃならんのですが、そこはストーリーテラーを目指す人が自分たちで勉強してください。
なお、現在では起承転結もどんどん進化していっています。考えてみれば原稿用紙250枚をたったの4分割では、一つ一つが長すぎて読者は飽きてしまうわけです。ですので作家さんによってはこの起承転結をさらに細かく分解していきます。多い人は50くらいに分けるそうです(すごいですね……)。
これに関して勉強したい方は乙一さんの本を読まれることをお勧めします。乙一さんの長編作品は非常に明快に起承転結が分けられており、さらにその起承転結をそれぞれ起承転結で分けています。つまり4×4の16分割。章も4章(+エピローグ)で作られていることが多く、起承転結をそのまま章に分けていると考えてよいかと思います。
これがとてもわかりやすいのは次の二冊ですかね。
死にぞこないの青 (幻冬舎文庫)
暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫)
ちなみにどっちもホラーっぽい作品名ですが、後者はむしろ萌えです。ミステリー要素はありますけど、とても心温まるお話ですので個人的にとても好きです。

次に序破急についてです。
起承転結は大体長さ的にも4等分なのですが、こちらは破の部分が長めです。また、破をさらに分割させて、破の序・破の破・破の急とし、全体で5分割することもあります。
それぞれについてやることは起承転結とあまり変わらないですかね。大体次のような感じになっています。
序:登場人物の紹介・世界観の説明
破:主人公の問題について・「課題」の提示・課題への取り組み
急:「課題」が覆されるような急展開が起きる・「課題」の克服・主人公の成長
といった感じです。
多少起承転結とズレはあるものの(これは所要する時間や、テンポによるものです)、基本はあまり変わりません。


さて、では本題のハリウッドの構成についての説明に入りたいと思います。
ハリウッドではアクト1・アクト2・アクト3という構成がとられています。3分割という意味では序破急に近いです。また実際、アクト2が最も時間的に長いです。
映画は大体90~120ですが、この尺は次のように分けられています。
b0118096_13263019.jpg

このそれぞれの山は観客の盛り上がり・緊張感を意味しています。山から落ちるのはカタルシスとよく呼ばれるやつです。緊張からの解放とか安堵などです。この山が三つあるわけですね。
(ちなみに最後にちょいと上がっていますが、これはエピローグ部分です。観客に少し余韻を楽しんで帰ってもらうためのもの。時間的には5分弱です)
それぞれの役割は次の通りです。
アクト1:登場人物の紹介・世界観の説明・主人公の問題について・事件の発生(カタルシス)
アクト2:事件への取り組み・「課題」の提示・「課題」への取り組み・「課題」の克服(カタルシス)
アクト3:事件の急展開・事件の解決・主人公の問題の解消(カタルシス)
となります。
これがとてもわかりやすいのが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(というかむしろこの作品で定着したといって過言ではないと思われる)です。あとは『逃亡者』もよく取り上げられますね。

以上を踏まえて『バック・トゥ・ザ・フューチャー』についての構成を見てみましょう。
まずアクト1では次のようなことが行われています。
主人公マーティとその家族らの関係(ここが一応第1作だけ見ると主人公らの抱えている問題となります)、そしてドクの紹介。時計塔やタイムマシン(デロリアン)の紹介。ドクが撃たれる。タイムスリップの発動(カタルシス)。
次にアクト2では以下のようなことがなされます。
マーティが現在へと戻るためドクに会いに行く(事件への取り組み)。過去のドクからこの時代では燃料としてのプルトニウムは入手不可だと言われ、代替エネルギーを探すことになる(「課題」の提示)。代替エネルギーとして時計塔へ落ちた落雷を利用することを思いつき、それへ向けて準備していく(「課題」への取り組み)、落雷を利用して現在へ(「課題」の克服)。ただし直前にドクに渡した手紙が破り捨てられる(時間的に山ともとれるし、カタルシスともとれる)。
最後にアクト3。
現在へ戻ったマーティはドクが撃たれるのを防ぐために事件現場へ急行、が間に合わない(事件の急展開)。しかしドクは破り捨てたはずの手紙を持っており、死なずに済んでいる(事件の解決)。家族との関係が変化している(主人公らの問題解決)。
ついでにエピローグを見てみると。
未来へ行ったドクが新しい事件が発生したと告げる(ここで観客の緊張感を少し高めて終了)。
といった感じになります。

ただ(監督ではないものの)スピルバーグのすごいところはこのアクト1・アクト2・アクト3を明確に分けてストーリーをつくった「だけではない」ということです。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』には上で挙げたシナリオ(根幹部分)以外に、サブシナリオというものが存在します。こちらもアクト1・アクト2・アクト3と分けられています。
サブシナリオのアクト1は次の通り。
主人公とその家族の紹介。この際に両親(特に父)と敵役のビフの関係が問題として提示される。過去に飛んだマーティが、父が助けるはずだった母のことを助けてしまう。そのことによって自分の存在が消えるかもしれないという事態が発生(事件の発生)。
アクト2。
自身の存在の消失を防ぐために未来(マーティにとっての現在)の形を正しい形にするため、両親をきちんと結びつけることが提示される(「課題」の提示)。マーティは父を母とくっつけるためにダンスパーティへの招待など色々と試行錯誤する(「課題」への取り組み)。途中母が結局マーティに惹かれそうになってしまうが、父がビフを撃退したことにより両親は正常な関係へと戻る(「課題」の克服)。
アクト3。
現在へと戻ったマーティはビフの態度が様変わりしているのを目撃。両親との関係も変わっている(主人公らの問題の解決)。
というような感じです。
見ていただければわかるように、メインシナリオのアクト1・アクト2・アクト3とは多少のズレがあるものの、並行して進んでいることがわかります。これによってストーリーを複雑化し、観客が飽きないように工夫されているわけです(特に時間の長いアクト2)。
一応メインとサブのシナリオを重ねたものを次に掲載します。が、これは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の場合であって、すべてのハリウッド映画がこのようになっているわけではありません。
b0118096_14324834.jpg



さて今回は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を題材にハリウッド映画の構成について取り上げてみました。日本の起承転結とはだいぶ異なることがわかるかと思います。
もちろん同じ「物語」なわけですから、色々とここから学ぶことはできるわけですし、サブシナリオの技法なんかを日本風にアレンジしてみることは十分可能なわけですが。
なおこのアクト1・アクト2・アクト3はハリウッドのシナリオライティングスクールでは必ず教わるものです。その際に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も実際によい参考として使われているそうです。(他にもプロット作成術や、ノート、カード、あらすじなど色々な技法も教わるようですが……今回の主旨とは外れるので説明しません)

なんか思ったより長くなってしまいました(二分割してよかった)。次回はテーマについてです。こちらは第1作目に限ったことではなく、全シリーズを通して解決されるマーティの抱える問題=男らしさへのこだわりのお話となります(これも長くなりそうだなあ……)。
by zattoukoneko | 2010-02-14 14:43 | 映像 | Comments(1)
Commented by zattoukoneko at 2010-03-02 00:48
今日エヴァの1.11を観てました。買ったのに放置してたんですよねー。
さて、この記事内で序破急について触れてます。エヴァの新劇場版にも序破急とタイトルが打ってありますね。
しかし……疑問に思いませんか? 四部作なんだから、普通の発想だったら起承転結と銘打てばいいはずです。けれど庵野秀明は序破急?と名前を付けた……。
正直何かを作る人間としては怖いです。庵野秀明の発想の先に何が待ってるのか。
文字通り考えると序破急の急に当たる次回作で終わりです。でもその先にまだ?が待っている。庵野秀明はここで何を描くつもりなのか? まさか単純に起承転結の名前を変えただけなんてことは、彼にはあり得ないでしょうし。

うーん。昔の劇場版が公開された後に、友人と「これを越えるものは10年は出ないな」なんて話をしてましたが、現実になっちゃいましたからね。少なくとも庵野秀明はそう感じて再び指揮を執ることにしたわけですし。
しっかし、上遠野浩平も言ってましたが、物書きはこれと戦わなきゃならんわけですよね……。つらすぎです(/_;)


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