ノーベル賞最大の汚点
2010年 01月 15日さて今回は山極勝三郎(1863-1930)という人物について紹介したいと思います。
この人は世界で最初にガンの原因が化学物質であることを特定した人です。その後のガンの研究はこの人なくしてあり得なかったと言っても過言ではないでしょう。
彼がやった仕事とは次のようなものです。
まず煙突掃除夫に皮膚ガン患者が多いことから、化学物質がガンの原因になるのではないかと推測しました。
そして山極は三年間かけてウサギの耳にコールタールを塗り続けました。そして確かにガンができることを見出すのです。1915年のことでした。
ちなみに「ウサギの耳にコールタール」ということですが、これはウサギの耳の皮膚がとても薄く、内部に化学物質が浸透しやすいと考えたからです。(この話をウサギ好きの人にしたら「許せない!」と憤っていましたが)
これは世界的に見てとても大きな業績です。しかし山極勝三郎にはノーベル賞は与えられませんでした。
代わりに1926年にヨハネス・フィビゲルという人がガンの原因を特定したとしてノーベル生理学・医学賞が与えられました。
フィビゲルの研究発表の方が早かったのもありますが、フィビゲルがガンのl原因だとしたのは寄生虫でした。
これは完全な間違いではありません。確かにガンを引き起こすような寄生虫は存在します。けれど一般的な原因ではなかった。そしてそのことを1926年当時には世界各国の学者が知っており、山極の化学物質が原因だとする説の方が正しいのだと思われていました。
それでもノーベル賞は山極勝三郎には与えられなかった……。何故か?
答えは単純です。
人種差別なんです。
当時科学はまだまだ白人によって独占されていた状況であり、日本はそれに追いつくのに必死でした(そして世界的に認められるような業績を上げる人物も大正時代には出てくるのですが)。
白人たちの見識はこうでした。有色人種は劣った人種であり、科学のような知的領域で業績を上げることはできないと。また科学だけでなく政治面でも劣っているとされていました。有色人種は植民地を持って運営することはできないとされていたのです(当時植民地を持っていることが一等国としての条件でした。そして日本は見事に日露戦争で奮闘しましたし、満州という植民地を得てきちんと運営して見せました。白人たちにとってこの衝撃はかなりのものだったようです)。
ノーベル賞の選考基準は秘密とされています。しかし選考委員が後にきちんと「これは歴史的に大きな汚点である」と言っていますし、選考の際に「日本人には早すぎる」という意見が出てきたことを述べています。
そしてついには現代にいたるまで「ノーベル賞最大の汚点」と言われているのです。(まあ、数年前に日本人がとったノーベル賞も汚点になりそうですが)
山極勝三郎はノーベル賞はもらえなかったものの、日本にその業績を残しました。その後日本はガン研究では最先端をいっています。
ガンについて研究したい方は是非とも日本国内で力をつけて、山極勝三郎の仇を取ろうではありませんか。
さて。ガンの話は以上でおしまいという感じです。インフルエンザから合わせて随分と生物関連の雑記が続いてしまったなと思っています。
次回は生物からは離れたいところなのですが、FFやKHというゲーム紹介も間に入れてしまったので小説や映像の話もかぶり気味かな、と思います。
そこで今度は「ヒトラーの貢献」というテーマでやりたいと考えています。
悪評ばかりが目立つヒトラーですが、彼がいかにその後の社会に大きな貢献をしたのかをきちんと明記しておきたいです。
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2014/10/19 20:30頃後日談追加
山極のノーベル賞非受賞は人種差別?
その後、公開された選考過程を調査した研究が出ており、委員会の判断は「妥当」であったとされています。
日本人に与えられなかったことをヘンシェンという人が悔いていたというのがこの記事の元になっていたのですが、
その人物の言葉も、当時の新聞記事とは異なっていたようです。
どうやら山極を推し切れなかった東大の人たちが、このような事情によると説明したようです。それが新聞に載った。
前の記事も考えるのには面白いと思うのですが、新しい発見の方がそれよりもっと面白い。
なので時間があれば、そちらもまとめて書こうと思っています。
……公開日時? それは約束できないなぁ(コラ